たとえ世界が変わっても

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 今週も会えなさそうだね。  スマホに届いたメッセージはそっけない。  付けっ放しのテレビでは、今日もニュースが尽きない。アナウンサーは神妙な表情で現状を伝え、コメンテーター達は出口のない議論を交わし、挙句の果てには県知事までもがマイクに向かっている。 「美樹、テレビを観ているだけなら、掃除を手伝ってよ」  キッチンから母が顔を出し、私はため息をついた。通常の私であれば、仕事に明け暮れている時間だった。つまり、今は通常の状態ではなく、私は好き好んで仕事を休んでいるわけではない。会社から自宅待機を命じられ、お給料関係もろもろもどうなるのか分からないまま、途方に暮れている。  四月といえば花見だ歓迎会だと忙しかったはずなのに、今年はその兆しさえ見せない。新型のウイルスが国内でも流行り始めたらしい。一月頃にはどこか他人事だったそれらが、あっという間に毎日のニュースで報じられるようになり、私達の生活を変えてしまった。 「書斎でお父さんが仕事中だから、掃除機は駄目よ」  騒音を立ててはいけないのに、掃除をしろと母は言う。母も混乱しているのかもしれない。異常とも思えるこの状況に。  ――緊急事態宣言の実施区域を、全都道府県を対象とします  テレビは言う。  ――国民の皆様におかれましては、不要不急の外出は控え、マスク着用や手洗いなどの感染症対策を徹底していただくようお願いします
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