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年度末
小渕沢 丈二は、教員生活二十二年目となる今年度、とある町の小学校に赴任した。
児童や同僚たちは、彼を「丈二先生」と呼ぶ。
三学期現在、3年3組の雰囲気はかなり砕けたものになっている。
「ウチ、あの子キライ」
漢字の書き取りノートの山に目を通しているとき、その声を聞いた。
(やれやれ)
赤ペンを走らせながら、小渕沢は嘆息した。
金縁眼鏡のブリッジを押さえて声の方向を見遣ると、廊下側の席に三人の女子児童が固まっている。
本人たちに気づかれないよう、すぐ手元に視線を戻す。
ちょっとしたことで陰口を叩いてみたり、仲間外れにしてみたり。
(女の子は難しい)
こういった兆候は、2年生頃から徐々に現れ始める。
女子三人という状態はただでさえバランスが難しい。
普段の結びつきは強いが、ひとたび何か起これば──。
廊下側に固まる子らは、そこに輪をかけて心配な三人組であった。
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