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 3)  「何か問題があったんですって?  大変ですねぇ、先生」  中嶋 千乃の母親を迎えるべく職員室を出ようとすると、ちょうどコピー機を使用していた殿山に声をかけられた。  (何なのか、この男は。  みっともない。僻むのもいい加減にしろよ)  小渕沢は、無視してコピー機の前を通り過ぎる。  「声が大きくて丸聞こえでしたよ。  問題が起きたというのに、えらく嬉しそうなことで」  職員室の引き戸をやや強めに閉め、殿山の粘着質な声をシャットアウトした。  3年3組の教室へ向かう途中、力任せに壁を蹴る。  図画の時間に児童たちが描いた絵が傾いた。  「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。  葵ちゃんにもご家族にも、どうお詫びしたらいいか」  小渕沢が今日の経緯を説明すると、中嶋 千乃の母親は真っ青な顔で頭を下げた。  「いえいえ。  ただ、やはり現物を見て頂いたほうが良いと思いましてね」  教室内の机を向かい合わせた状態で面談の形が取られている。  小渕沢と千乃の母親の間には、例の折り紙が置かれていた。  【ひどい人がいるから 気をつける】  折り紙の裏に子供の筆跡。  そして、まったく同じものがもう一枚──。  
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