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4)
及川が受話器を戻した。
「またですか?」
瀬尾が声をかけると、及川は「まあね」と手短に答えて首の付け根付近を指で揉み込む。
手紙を禁止にしたことが、思わぬ波紋を広げていた。
父兄からの電話は、これで六件。
いずれもPTA活動などに積極的な家庭からで、内容は
いつまで禁止なのか。
3年生だけに限った話か。学年をまたいだ手紙のやり取りは?
校外の友達にも手紙を出せないのか。
といったものだ。
子供の伝え方だと限界があるのか、「校内では」という部分が抜け落ちてしまっている。
だからといって、及川は特段疲れている様子はなさそうである。
ベテランともなると、父兄への対応にも余裕がある。
小渕沢は、顔を真っ赤にして「こんなのは嫌がらせだ」と吐き捨てた。
しかし、瀬尾は小渕沢に完全には同調できない。
重箱の隅を突くような問い合わせが大半ではあるが、中にはまともな意見もあった。
禁止すれば解決できる問題なのか。
瀬尾も感じた疑問だ。
違和感を持ちながらも学年の方針に従い、結果このような指摘を受けたことに、瀬尾は心苦しい思いであった。
「長い一日だったなぁ」
瀬尾は疲れ切っていた。
職員用の玄関でパンプスに履き替える。
「実咲? キミも帰るところ?」
声をかけてきたのは、カナダ出身の英語講師、オリバーだ。
「どうしたの? 珍しく元気がないじゃないか」
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