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「そんなことがあったのか」
騒がしい居酒屋のカウンター席に、オリバーは長い足を折り畳むようにして納まっていた。
日本をこよなく愛する彼は、瀬尾が案内した大衆居酒屋をいたく気に入ったようだ。
お猪口を持つ姿もサマになっている。
「ボクも禁止というのはおかしいと思うよ。
やりながら学ぶべきだ」
「そうよね……」
瀬尾は、りんごサワーのジョッキを傾けた。
自身の感覚が間違ってはいなかったことに安堵する。
「キミは自分の考えを伝えたのかい?」
「もちろんよ! 学ぶ機会を作ろうって。
でも、カリキュラムがどうのこうのと言われて終わり」
「カリキュラムか。
日本人ってのは、何でもキッチリするのが好きだね」
オリバーは呆れたように言って、お猪口を口に運んだ。
瀬尾は残りのりんごサワーをあおる。あまり酒が強くない彼女は、すぐにジョッキから口を離して咽せた。
情けない言葉が口をつく。
「いつもそうやって止められる。カリキュラムが大事なのはわかるけど!
自分が思うことができないの。私、そんなに頼りないのかしら」
夢をもってこの世界に飛び込んだ頃は、こんな壁があるなんて想像もしなかった。
屈託のない子供たちの笑顔を思い出すと泣きそうになる。
少し、酔いが回っているのかもしれない。
「実咲。キミの唯一の欠点は、自信を持てないところだ」
オリバーが静かに言った。
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