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「お箸、お上手ですね。俺なんかより全然キレイな使い方だ」
その店員は、人懐っこそうに声をかけてくる。
「そうかな。どうもありがとう」
「彼氏さん、日本は長いんですか?」
オリバーは「まあね」などと普通に応じているが、瀬尾は酒を吹きそうになった。
少し雑談してから店員が下がると、顔を見合わせて苦笑いする。
ちょっとお調子者だが憎めない店員だ。勘違いの相手がオリバーなら、瀬尾も悪い気はしない。
でも、今は仕事以外のことは考えられなかった。
オリバーだって同じはずだ。
「それで、引っかかることって?」
おでんをつつきながら、瀬尾は昼休みの出来事を話した。
「手紙を写させた、か。ヘンな話だね」
オリバーは、器用に箸を使って切った大根を口に運ぶ。
「葵ちゃんにそれを書かせて罪を被せようとしたって、丈二先生は言うんだけど」
「罪?」
「葵ちゃんの字で書かれた、良くない内容の手紙。
それが誰かに渡ったら……」
瀬尾はコンニャクを口いっぱいに頬張り、熱さに目を白黒させて言葉を切った。オリバーが「そういうことか」と頷いて箸を置く。
「でも、千乃がそんな複雑なことを考えるかな?」
「私も同じ思いよ」
「あの子は、もっと子供らしい子供だと思うんだけど」
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