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「千乃ちゃん、元気なかったみたいね。
オリバーが言ってたわよ」
放課後の職員室で、及川が言った。
瀬尾は、密かにオリバーに感謝した。小渕沢でなく、学年主任の及川に伝えたくれたことも。彼のことだから、それとなく、上手い具合に話してくれたに違いない。
「確かに、ちょっと大人しかったようですな」
小渕沢は、顔を上げずに答えた。
ペンの走り具合から察するに、テストの採点でもしているようだ。
「まあ、いい薬でしょう」
その態度に瀬尾は腹が立った。
千乃ちゃんの様子なんて、ほとんど見ていなかった癖に──。
「あの! そのことなんですが」
瀬尾がいつもより強い口調で発言した時、内線が鳴った。
中嶋 千乃の母親からだと伝えられ、小渕沢は訝しげな表情で受話器を取る。
少しの間、「はい、ええ」などと相槌が続いた後──。
「ああ……何てことだ、すみません!」
小渕沢が、電話に向かって頭を下げた。
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