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 1)  「瀬尾先生、そんなものまで作るんですか?」  会議後の職員室。  小渕沢が声をかけると、向かいのデスクで作業している女性教師が顔を上げた。  瀬尾 実咲。まだ2年目の若い教師で、3年2組を受け持っている。  彼女は、算数の授業で使うための小道具を作成しているのだった。  画用紙に大きくホールケーキを描き、何等分かにできるようにハサミを入れている。  「昼休みなんかを使ったらいいのに」  「その時間は子供たちと遊んでいるので」  瀬尾が、長い休み時間の度に子供たちと鬼ごっこやドッジボールに興じていることは小渕沢も知っていた。  若いな。  だが、そのうち潰れる。  「瀬尾先生。  熱心なのも結構ですが、もっと効率的にやらないと身体を壊しますよ」  「私が楽しくてやってるんですよ。  一緒にいると、子供たちのことがよく分かります」  いつまで続くかね。  小渕沢は鼻白んだ。  「子供の様子なんて、日頃からちょっと気を配っていれば分かりますよ」  「私はまだまだ丈二先生の域には行けないなぁ。  時間をかけなきゃ分かりません」  瀬尾が笑顔を見せる。  世辞も入っているのだろうが、若い女性に持ち上げられたことで小渕沢は少々気を良くした。  と、職員室の入り口がにわかに騒がしくなる。  「殿山先生、また会議サボったでしょう!?」    
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