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『娘に謝ってください!』
「はい。それはもう、もちろんです」
電話口で激昂する父親に、及川が必死に答えていく。
『その上で、学年集会でも詫びてください。
対応を間違えていたと』
「え?」
『当然でしょう。娘から聞きましたよ。
みんながジロジロ見てたって』
確かに、野次馬がたくさんいた。
雨が降っていたため、児童は教室に留まっていたのだ。
『それを受けて、下校前にわざわざ学年集会を開いたとか。
手紙は禁止だと強調されたそうですね?』
想定になかった要求らしく、及川は困惑の表情で唇を舐めた。
『本当に悪いことをしたならいくらでも叱ればいい。
でも、実際あれは手紙ではなかった。娘の名誉に関わる問題です』
「しかし……怒られる子は日に何人かいるんです。
学年集会は千乃ちゃんのことだけではなく……」
『そんな奴と一緒にするなよ!
そっちが勝手に騒いで大事にしたんだろうが!』
父親の怒声は、受話器を通しているにも関わらず職員室中に響いた。
胃が重くなるような時間が続く。
瀬尾の向かい側で、小渕沢は貝のように固まっている。
及川が掌で額の汗を拭った。
「申し訳ありません。
ただ……話を蒸し返せば、また千乃ちゃんが注目されることになります。
逆に傷つくかと……」
これに対して父親が何か言おうとしたが、物音がして母親に代わった。
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