31人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、お母さんですか。この度は……」
『あの。伊藤 葵ちゃんのお宅へはもう連絡が行ってるんでしょうか?』
小渕沢が「あッ」と顔を上げた。
及川が受話器を押さえて「何のことよ?」と小渕沢を見遣る。
『担任から聞いてないんですか?』
小渕沢は、千乃が葵に強制的に手紙を書かせていると思った。
母親を呼び出し、注意喚起のため伊藤家へ連絡する旨を伝えていたのであった。
あらましを聞かされた及川は、拳で眉間を押さえた。
小渕沢が【連絡取りました】と走り書きした手帳を掲げている。
『既に連絡してるんですね?
うちが弱い子を力で支配するような子供だから、気をつけろって言ったんでしょ?』
激昂する父親と対照的に、母親はやや早口で冷たい口調である。
瀬尾はそこに、学校への激しい怒りと侮蔑の念を感じた。場の雰囲気は、父親が怒鳴っていた時よりも緊迫している。
『冗談じゃないわ。一緒にメモを書いてただけじゃないですか。
取り消してください、今すぐ』
「は、はい。その……」
『こちらの要求は娘への謝罪と、伊藤さんへの連絡内容を取り消すこと。
あとは校長先生に代わってください』
最初のコメントを投稿しよう!