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 「あ、お母さんですか。この度は……」  『あの。伊藤 葵ちゃんのお宅へはもう連絡が行ってるんでしょうか?』  小渕沢が「あッ」と顔を上げた。  及川が受話器を押さえて「何のことよ?」と小渕沢を見遣る。  『担任から聞いてないんですか?』  小渕沢は、千乃が葵に強制的に手紙を書かせていると思った。  母親を呼び出し、注意喚起のため伊藤家へ連絡する旨を伝えていたのであった。  あらましを聞かされた及川は、拳で眉間を押さえた。  小渕沢が【連絡取りました】と走り書きした手帳を掲げている。  『既に連絡してるんですね?  うちが弱い子を力で支配するような子供だから、気をつけろって言ったんでしょ?』  激昂する父親と対照的に、母親はやや早口で冷たい口調である。  瀬尾はそこに、学校への激しい怒りと侮蔑の念を感じた。場の雰囲気は、父親が怒鳴っていた時よりも緊迫している。  『冗談じゃないわ。一緒にメモを書いてただけじゃないですか。  取り消してください、今すぐ』  「は、はい。その……」  『こちらの要求は娘への謝罪と、伊藤さんへの連絡内容を取り消すこと。  あとは校長先生に代わってください』  
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