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 キンキン声を発したのは及川というベテランの女性教師だ。  3年1組担任。学年主任である。  「おー、忘れてたわ」  「確信犯ね!」  「俺ぁ、職員室って場所が嫌いなんだよ。  会議だって、どうせしょーもない内容だろ」  及川に捕まった殿山という教師は、面倒くさそうに胡麻塩の頭髪を掻いている。  小渕沢は辟易した。  殿山は苦手な部類だ。  シャツをだらしなくジャージの外に出し、三学期の現在は防寒のためか派手なスカジャンを羽織っていたりする。  教師にあるまじき姿だ。  何故か1〜3年生の低い学年ばかり受け持っており、今年度は1年生の担任である。  厳しい指導は有名で、低学年相手でも手加減しない。彼の教室では毎日一人は児童が泣いているという噂だ。  「あんな不良教師になってはいけませんよ」  小渕沢は眉間にしわを寄せ、小声で瀬尾に忠告した。  瀬尾は微笑を返したのみで、先程のケーキの裏にシート状のマグネットを貼り付けていく。  「ああ、小渕沢先生」  殿山が呼びかけてくる。  彼は、他の教員のように「丈二先生」とは絶対に言わない。  誰からも慕われる自分を妬んでいるのだろうと、小渕沢は考えている。  以前教頭に聞いたところによると、彼は小渕沢と同年に教員免許を取得しているということだった。  
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