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2)
口角を上げつつドアをノックすると、ややあって「はい」と小さな声が返ってきた。
「どうも、お母さん」
小渕沢は、平身低頭する伊藤 葵の母親に席を勧める。
「ほ、本当に申し訳ありません、こんな時間に……」
「いえいえ。
今日はどうされました?」
葵の母親は、ハンカチで小鼻の辺りを押さえた。
「そのぉ、お友達関係のことで」
「ほほお」
「なかなか、お友達の間に入っていけないようで」
「葵さんと一緒にいるのは、千乃さんと凛音さんですね」
葵の母親は頷くと、心配そうに声を震わせる。
「仲良くできることもあるんです。
ただ、大勢のグループになると、あーちゃんは入れてもらえないと」
公の場で自分の子を”あーちゃん”などと呼称することに、小渕沢は呆れ返った。
葵はもう小学3年生なのだ。
「それは、具体的にいつ頃のことで?」
「ええと、最近では先週……」
何だ、それは。
小渕沢は、自分の頬が引きつるのを感じた。
これでは何のために時間を取ったか分からない。
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