31人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう終わったんですか?」
会議室を出てすぐ、書類の束を抱えた殿山に出くわしてギョッとした。
廊下は既に薄暗い。
「伊藤の母親、あまりスッキリした顔つきではなかったようですが」
「ポイントを絞れば、面談なんてすぐ終わりますよ。
立ち聞きはやめてください」
小渕沢は目を三角に尖らせた。
「教室に戻る途中だったんですよ。
俺ぁ、効率的な人間じゃないんでね」
殿山は、立ち聞きなどしていないと言外に匂わせてくる。
小渕沢は、構わず殿山の横をすり抜けた。
「何が”遠慮なく連絡しろ”だ。
先週、忙しいからってお前が応じなかったんだろうが。
及川が言ってたぞ」
聞いていたんじゃないか──!
憤然として振り向いた時には、殿山は既に暗い廊下の角を曲がっていた。
小渕沢が殿山とまともな会話をしたのは、これが初めてだった。
最初のコメントを投稿しよう!