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 3)  問題が起きたのは、二月に入って間もなくのことだった。  「こんな手紙が落ちていました」  3年1組担任、学年主任の及川が声を張り上げた。  朝の会の時間帯に急遽、学年集会が開かれている。児童たちは、狭い廊下でぎゅうぎゅう詰めになって並んでいた。  手紙は二通。  1組付近の廊下に落ちていたものを及川が拾い、問題視した。  手紙はいずれも自由帳を破って折り畳んだもので、次のようなことが書かれている。  【○○のことがキライ】  【わたしもだよ。キモいよね】  この場では差出人や受け取った児童の名は伏せているが、後から個別に呼び出されるはずだ。  こういった手紙が出回るのは初めてのことではない。今回の手紙の主は、1組の児童だった。  「手紙は、感謝の気持ちや愛情を伝えるものです。  悪口を書くものじゃないよね」  子供たちは、多くが無関心な様子である。  この中の誰が内心ヒヤヒヤしているか、今の段階で窺い知ることはできなかった。  「今から大切な話をします。注目」  及川がピシッと刺すように言うと、余所事をしていた子も一応は前を向く。  「今日から、校内での手紙のやりとりを禁止にします」  同じことを繰り返させないための措置だった。  不満の声が上がるかと危惧されたが、予想に反して子供たちはポカンとしている。  2組担任の瀬尾 実咲は、暗い気分で脇に控えていた。  禁止することが解決策といえるだろうか。    
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