一名様ご案内

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一名様ご案内

「えーっと……ここで合っているのかしら」  柚葉(ゆずは)は一枚の葉書を手に、自宅から裏通りへと歩を進める。葉書に記された手書きの地図を頼りに右折、左折、暫くして再び左折。そうして迷路のように枝分かれした道を抜けると、気が付けばそこは人気(ひとけ)の無い路地裏だった。 「は……え……?」  ここは一体。視線を前に向けると、柚葉は唖然とした。そこには紅色の暖簾が映える、古風な外見の店だけが建っていたのだから。更に不思議なことに、この店の看板を見ると、店名は“孤独屋”らしい。が、店の情報が記された葉書に書かれた店名は、“運命屋”なのだ。 (孤独屋? 私が探しているのは運命屋よ。場所を間違えたのかしら)  そう思い柚葉は来た道を引き返そうとする。それを引き止めたのは、「あの」という少年の声だった。声の聞こえた方向を見ると、孤独屋のドア前に一人の少年が立っている。 「お姉さん、道に迷われましたか? 僕で良ければ何か手助けしますよ」 「えっ……じゃあ、運命屋ってお店、知らない?」 「運命屋ですか。それならお姉さんの目の前に」  柚葉は少年の返答に目を見開いた。つまり、運命屋イコール孤独屋、ってことなのだろうか。そうやっておどおどしていると、青年は彼の見た目にそぐわないような幼い声で話を続けた。 「お察しの通り、孤独屋は運命屋です。前者は店名で、その愛称が後者と言えば分かり易いでしょうか。そしてこの店を経営しているのが僕です」  少年の突然の店主宣言に、柚葉は思わず「え!?」と声を上げた。 「君、高校生に見えるけど」 「いいえ。僕は十年程前に成人式終えているので」  二度目の思わぬ返答に、柚葉はまたまた「はぁ!?」と素っ頓狂な声を出した。顎が外れそうな程に口を開ける柚葉に少年……否、店主は苦笑しながら店のドアを開けると、新たなお客様に手招きした。
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