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糸と意図
「うわあああああああ!!!! 貴様、騙したなあ!!」
老人の悲鳴が店内に響く。彼の右人差し指に巻き付いた「糸」は、徐々に桃色から闇のようなどす黒い色へと変化していた。
「いらっしゃいませー、ってあれあれ。お客様、色の混ぜ過ぎには十分気を付けてと何度も注意喚起しましたよね?」
「五月蝿い、この若造が! 突然糸が黒く染まり始めたんだ。この色の糸は何が起こるのだね、戻す方法は!」
男性店主はいつも行動を共にする熊の縫いぐるみを抱き締め、鼻で笑う。
「はい、色に関しては以前もお伝えしましたよね? 漆黒はこの糸で結ばれた二人の死を意味します。この色から元の色に戻すための平和的な対処法は無いですが……」
「が、何だね!」
「危険が伴う対処法であれば、お客様と糸で結ばれたもう一人を殺める、という方法がございます。そうすればお客様が死することはございません」
店主がそう告げた途端に老人は血相を変え、血眼で店主の方を見つめた。
「婆さんを殺せば……わしは助かるのかね」
「ええ、左様です」
店主がそう口にすると、老人は「待ってろよ婆さん……!」と殺意に溢れた眼で店を後にした。お客様はその婆さんとの仲を改善するためにここを訪れたはずでは? と老人に呆れつつ、店主は店内のドア付近を確認する。
そこには血よりも真っ赤に染まった足跡のような何かが残されていた。店主は縫いぐるみを床に置き、そこに右手を覆い被せる。すると右手は光を放ち、たちまち足跡は消え失せた。
「血色は殺意の証ですね……。運命の色、頂きました」
店主は「んくっ」と不気味な笑みを零した。
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