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第二話 亜香里(OL)の話
会社で一つ歳上の先輩である尾上義信さんは、清潔感があって頭も良いい頼れる存在。
そんな女性社員からも一目置かれる彼を、デートに誘ってもらえるまでの関係にするのは一筋縄ではなかった――。
中途採用で入社して間もなく義信さんの配下についた私(橘亜香里、26歳)は、頼まれた資料をまとめる簡単な作業から始めた。
少し時間はかかったけど、何とか納得のいくまで仕上げて義信さんに提出すると。
「――橘さんごめん、この部分だけ修正してくれる? あとはほとんど文句ないくらい完璧だから」
「あ……はい! すいません、すぐやります!」
「急ぎじゃないから大丈夫だよ」
そんなこと言われても後に回せるワケがない。みんな彼から頼まれた仕事は、何よりも最優先に片付けている。
年明けに初詣で『彼氏が欲しい!』とお願いした私も、何とか彼の意識を自分に向けさせたかった――。
高層ビルで43階の角にある、景色のいい喫煙室。
スマホを弄りながら電子タバコを吸っていると、義信さんが後から入ってきた。
「お、橘さんタバコ吸うんだ……何か嬉しいな」
え? どういう意味ざんしょ?
タバコを吸う女を苦手にする男は多い。それでも義信さんは意外な言葉を吐き、口元を緩めながら紙タバコを咥えた。
「え、そんな嬉しいですか!?」
「ああ、同じ部署で吸う人いなかったからさ」
はい思い上がりの勘違い発動。
まぁ、いきなり直球で“貴女のこと気になってます的な匂い”醸し出すワケないか。
そんな感じで喫煙仲間となった義信さんとは連絡先の交換もすんなり出来た。もちろん『仕事の相談とか』みたいなノリを理由にしたんだけど――。
とはいえ、チャットが始まってしまえばプライベートの話に脱線するのは簡単なはず……と、思ってました。
ん~こない。
返信がこない。
既読ついてるけど、すぐ返ってこない。
せっかく連絡を取り合える仲になっても、数日間こんな調子が続いてる。
アパートで一人暮らしをしてる私は、酎ハイ片手にローテーブルで項垂れていた。
何度もスマホを覗いては落胆を繰り返す。
挙げ句の果てには「Wi-Fi環境おかしくない?」と、ルーターとの接続を切ったり繋げてみたりと全く意味のないことをしていた矢先――スマホから短い着信音が鳴った。
きた!!
すぐに開くと即座に“既読”がついてしまうため、トーク一覧で内容を確認してみる。
《辛いものは結構好きだよ》
うむ。
聞き返してこないけど、これはこれでよし。とりま無駄に時間を置いてから返信。
〈ホントですか!? 私、辛いの大好きなんですよ!〉
というハイパー嘘をついてみる。でも食べれなくもないから問題なし。
《そうなんだ、じゃあ今度どっか食べ行こうか?》
待ってました!!
〈メッチャ行きたいです! 〇〇ってお店のチゲ鍋が評判いいらしんですよ! △△駅も近いしどうですか??〉
ギネス記録に載るくらいネットで調べて提案するのが早い私。
《ちょっと待って。今隣にお母さんいるから、そこでいいか聞いてみる。あ、三人だからレンタカー借りちゃう?》
おっと~。
え、なになになになに?
一体そっちで何が起きた?
『待って』と言いたいのはこっちなんだけど。
ん、どういうこと? 何でこいつは私達のデートにいきなり“お母さん”カットインさせようとしてるワケ? あんた27歳だよね? え、過去に彼女もいたんだよね? まさか今までのデート全部お母さん同行してたの?
私、神社で『彼氏欲しい』とは頼んだけど『ガチキモマザコン欲しい』とは頼んでなかったはずなんだが?
ってかまさか実家住んでないかお前?
どうしてこうなった……唐突な吐き気がヤバい。
これは“ギャップ萌え”じゃなくて“ギャップオエ”っしょ。
こうして私は即座にスマホをソファへぶん投げたのだが、無情にもバウンドして思いっきり床に落ち、画面が見事にカチ割れてしまったのであった。
めでたしめでたし――。
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