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つまるところ僕は、フグを食べる自分と雰囲気に酔いしれ、根本的にはポン酢の味を楽しんでいたのではないか。
悲しくもあるが、それが現実であり本質。
高級感と特別感に踊らされ、むしろポン酢を旨いと思い込んでいた気がしてならない。
もちろん、焼きフグや唐揚げや白子はどうなのだと言われれば返答に詰まるが、少なくとも今、僕がフグを回避するためにも、僕の中でのフグの旨味は、それ即ちポン酢の旨味と思っておいても差し支えがないはず。
ということは極論を言えば、例えば湯豆腐なんかにポン酢をかけて食べればもれなくフグの味がするのではないか、少なくとも僕の場合は。
――そうに決まっている。
僕は言い聞かす。
――そうに決まっているのだ。
つまりフグなど取るに足らない。
だからフグを食べる必要なんて無いのだ。
更に言い聞かせる。
――他愛もない。
フグを食べたいのであれば、ポン酢を舐めておけばいいのだ。
であればポン酢を美味しく食べられるものを今日食べれば、それで僕の欲求は満たされるはず。
――そうすべき。
であれば何を食すべきなのか、ポン酢の美味しい料理を少し考えてみることにした。
――やはり湯豆腐か。
先程、頭の中で湯豆腐と呟いた手前、僕の心は既に湯豆腐へと向かっている。
しかし、問題がある。
多少は考えてはみたものの、どう考えても問題だ。
――暑いのだ。
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