質量を増す雲

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 つまるところ他のものなど今は全くもってどうでもいい。  ただただ鰻を食べたい。  むしろ鰻以外の食材など今は(ろう)人形くらいにしか思えず、鰻の事を考えると2~3日前に食べ終わったままテーブルに放置されたこのカップ麺の空容器も、暑すぎる外気に狂わされいまいち効きの弱いゴミのような冷房に蒸された耐え難いこの8畳一間の圧迫感も、今は全く気に留まらなくなる。  もし鰻以外の食材が本当に全て蝋人形であったなら、いかに室内であろうとこの熱気の下では夜半を待たずに早々に溶け出してしまうだろうことを考えれば、やはり鰻以外の食べ物など今の僕には不要なのだ。  そのくらい食べたい。  なので、僕はまた鰻のことを考える。  なんならこの不快な夏の熱気の立体感を心から一切追い出し、気を確かに保つためにも、僕は鰻のことを考える必要があった。
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