質量を増す雲

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 仕方がないので僕は少し俯瞰(ふかん)して考えてみる。  ――このまま欲望に身を委ねてもいいものか。  するとすぐに結論は出る。  ――我慢すべき。  どう考えてもそれが結論である。  僕は独り身で比較的自由にお金を使えるが、決して生活に余裕があるわけでもなく、欲望のままに鰻を食べても許される人間ではないはずだ。  月の半ばに許されるのは、せいぜいラーメンとか、あるいはどこぞの有名店と共同開発したちょっとお高いカップ麺程度のもの。  結局のところお安い麺類でも食べておいたほうが利口なのだ。  ――わかってはいる。  わかってはいるのだが、しかし、焦がれる想いはそう簡単には収まらない。無理をして食べようと思えば食べられるくらいの金銭状況だからこそ、むしろ諦めがつかないのだ。  しかし意思の弱い僕のこと、このまま漠然と考えていても結局は鰻に手を出して、食べ終わった頃に後悔するのは目に見えている。  4割程食べ進めた頃合いから不安が大きくなっていき、8割程度で己の不幸を呪うのだ。そして10割食べた後に世の中をきっと憎む。  更に給料日後、また同じ葛藤を繰り返した挙げ句に何か美味しいものを食べて再び後悔するまでが様式美に違いない。  ――そんなことには、絶対にさせない。  僕は考えた。  なんとか鰻を食べずに済むようにするにはどうすればいいのか。  僕は考える。  暫く考えた。  そして閃く。    ――鰻のことを嫌いになればいいのではないか。  我ながらスマートな解決策に、目が(くら)む。  僕は早急に鰻を嫌いになることを決めた。
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