質量を増す雲

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 そこへ行くとフグは本当によく出来ている。  皆、危険性を知っているから、安易な気持ちでフグは取り扱わない。素人(トーシロ)は絶対に手を出さない。というか免許がなければ扱ってはダメだ。ということはフグが自身の価値を、それこそ免許が必要となるまで引き上げたのだと言っても過言ではない。  これは、フグが懸命にその毒性をアピールした結果に他ならないのではないか。自身を正しく理解、評価し、他者に余すことなく伝えた結果である。 『私、凄まじく毒があります。適切な調理と可食部分のみの提供が必須となりますが、味には自身があるので、そこは人類側の技術と管理で何とかよろしくお願いいたします』  そんな姿勢が見て取れるではないか。  そういった意味では鰻よりフグのほうが圧倒的に優れていることは明白であって、つまり鰻は自己認知力と主張力、そして謙虚な心を欠いているわけだ。  そんな致命的な欠点を持つものが、群雄割拠の高級食材界に平然と名を連ねるなんて、僕はおかしいと思うし、なんなら片腹も痛くなる。  あえて明言するものでもないが、高級食材であれば、全てにおいて完璧であるべきなのだ。  だからダメなんだ鰻は。  前々から思っていたけども、やっぱりアイツはダメだ。  ありえない。  鰻はやっぱりダメだ。  一通(ひととお)りそこまで考えると、当然行き着く。  ――もしかして、鰻よりもフグのほうが完璧なのか?  僕はそう思い、こう思う。  ――フグが食べたい。  しかし問題がある。  少しだけ考えてみたが、避けては通れない。  ――フグは、高いのだ。
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