声無き人の心の声

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(助けて!  死にたくない。  誰か、助けて!  このままじゃ、この部屋で溺れて死んじゃう。  閉じ込められたの!  誰か!  助けて!)  私は捉えられ、密閉された部屋に閉じ込められていた。  わからない。  何故?    何か大きな物が壊れたり、鉄砲の音が沢山していた。  静かになったと思ったら、部屋にあるパイプの繋ぎ目から水が噴き出した。  両手は縛られて自由にならない。  浮いているのは苦しい。 (溺れちゃう、このままじゃ。助けて! 助けて!)  するとドカンと大きな音がして、壁に大きな穴が開いた。  そこから溜まっていた水が流れ出した。   「う”、ゴホ! う”――」  呻き声をしながら、肩で大きく息をした。  水が大分引いた時、穴の付近で大きな黒い人の形をした物が見えた。 (何? あれ? ロボット?)  それは、黒いロボットだった。  左肘(ひだりひじ)には巨大な機関銃。  右肩には大きな盾。  板の様な突起の物が2つ、両肩に羽の様に生えていた。  赤い小さい点の光が、正面の黒い線の部分を上下左右に動いている。  そして、その赤い光は私のいる正面で静止した。 (な、何? あのロボット、銃持ってる。怖い!)  私は怖くなった。  突然拉致されて閉じ込められてから、碌な目に逢っていない。  冷静になれと言うのが無理よ。  その黒いロボットは、ゆっくりと近づいてくる。 「うぅ。うぁぁ」  私は怖くて、悲鳴にもならない声を上げた。  だが、私にお構いなしで近づいて来る。 「ビー!ピッ、ピッ、ピッ! キュルキュル!」 (何? このロボット、何か言っている?)  そのロボットは姿勢を低くして、正面の口のような所をバックりと開けた。  そこは、操縦席の様だった。 (あ、誰も乗っていない。どうやって動いてたの?)  私はビックリした。  中に人が載っていて、私を殺しに来たのかと思ってたのに。  そのロボットは、左手を私の方にゆっくりと出して来た。 (え? 乗れって言ってるの? これに?)  死神じゃないと分かったとたん。  私はホッとした。  私は、その操縦席のような場所に潜り込んだ。 「キュルキュル!ビー!ピッ、ピッ、ピッ!」  正面のテレビ様な所に文字が出ていた。 (このロボットが何か言ってるのが、あそこでわかるのかな?)    私は、そのテレビの様な画面を確認した。 「アナタ ノ コエ。 カクニン シマシタ。 アナタ カラノ キュウジョ ノ ヨウセイ カクニン。 キュウジョ ボウガイ スル ショウガイ ハジョ シタ。 セイメイ ノ キケン アリマセン。アンシン シテ クダサイ」 (私の声が、聞こえた? でも、私、声出せない。呻き声ぐらいだけど、あの時は溺れていて、声も出せなかったのに。どうして?)  すると、ロボットが、また音を出しながら、テレビの様な画面に文字を表示した。 「オンセイ デノ カクニン デハナイ。 アナタ ノ ココロ ノ コエ ヲ キイタ」 (心の声って何だろう? このロボットさん、何を言っているのかな? テレパシーかな?) 「テレパシー デハ アリマセン。 デモ、 ソレニ チカイ コト デス」  何の事か、わからない。  けれど、そのロボットさんは、そこまでの説明をすると私の座っているコクピットを締めて、部屋の外にゆっくりと歩き出した。  他のテレビの様な画面には、色んな円が、あちこちに動いていて、周りを警戒している様だった。 (安全を確認しながら、歩いているのかな?)  すると、廊下の曲がり角(まがりかど)から銃を構えた人が出てきた。 (キャッ!)  ビックリした。  その人はヘルメットで顔が見えない。  全身をグレーの兵隊さんのスーツのようなものを着ていた。 「あれ? 何で動いているんだ?」 (あれ、このロボットさん、あの兵隊さんのロボットさんなの?)  私は少しぐったりしてたけれども、その兵隊さんを見ていた。  すると、ガクンと膝を下げて、「ピッピッピッ」と音を出して座り、私が載っているコクピットの蓋を開けた。 「あ、女の子が乗っている。勝手に乗せたのか?」  そう言うと、兵隊さんは飛び乗って来た。 「この子、溺れていたのか? 服が濡れてる。オイ、大丈夫か? 服も着替えたほうが良いな。オイ、1人で着替えられるか?」 「う”、う”」  私は、『ハイ!』と返事をしたかったが、声が出せないので呻き声みたいになった。 「声、出ないのか?」  兵隊さんは、テレビの様な画面も見た。 「大丈夫って言ってるのか? そうか。俺は外に居るから、これに着替えなさい。風邪をひいてしまうぞ」  そういって、後ろから兵隊さんの予備の服を取り出して、タオルと一緒に渡してくれた。 「『(ほまれ)』。着替えるまでの間、コクピットを閉鎖。周囲を警戒しろ」  そう言うと兵隊さんは外に出た。  そして、銃を手に持って回りを警戒していた。  ロボットさんも蓋を締めて、「ピッピッピッ!」と言ってきた。 (ロボットさんも着替えろって言ってるのかな?)  私は濡れた服を脱ぎ、タオルで体を拭いて用意された服を着た。  だけどサイズが大きい。  ちょっとブカブカ。    その後、兵隊さんは、私を抱きかかえてロボットさんを操縦し、安全な所に脱出してくれた。  私は安心したせいか、眠ってしまった。   「……だ。だが、教えるわけにはいかないな。知れば悪事に使う奴もあらわれる。この器官が収められているのも秘密にする。だいいち見つけられまい。見た目は何の変哲もない装置に見えるだろう。だが、取り換えても同じように機能する。物しか見えない奴らには奇妙に見えるだろうて」  誰かがしゃべっていた。 「博士! この子は声が出ていない。もしかしたら、声が出せない子かも。どうやって、この子の位置や気持ちが分かったですか?」   (博士? 博士という人と、あの兵隊さんが喋っているの?) (あれ? それに、ここはどこ?)  気が付いた時には、見知らぬ場所にいた。 (ここは倉庫かな? 博士みたいな人の言った、器官って何の事?)  どうやら私、安全な所には逃げられたみたい。  ――終わり――。  
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