第1話 立磨、覚醒する!

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第1話 立磨、覚醒する!

 「ふう、腹減った~っ! コンビニで飯を買うか♪」  黒髪に短髪、そこそこの良い顔と鍛えらえれている体。  着ている物は、黄色のパーカーの下は新品の黒帯が巻かれた空手着にスニーカー。  荷物は私服の入ったナップザックを背負っている。  そんな少年、日高立磨(ひだか・たつま)は夜の寂れた人気の少ない商店街を一人コンビニを目指して歩いていた。  店内に入り、弁当のコーナーでカレーうどんを冷蔵庫からはコーラを一本コンビニのカゴへ入れてレジへと逆戻りする。  「お弁当は温めますか?」  「お願いします♪」  レジで代金を支払い、人のよさそうな店員のお兄さんにカレーうどんをレンジで温めてもらう立磨。  そこまでは平穏な時間であった、新たな来客がコンビニの中に入ってくるまでは。  その客は中年のサラリーマンの姿から瞬時に白いイカの怪人へと姿を変えた!  「か、怪人っ!」  「ふざけんな、馬鹿野郎っ!」  驚く店員と怒る立磨、立磨は短い鼻呼吸で気を練り砲弾の如く突進!  イカ男の腹に帯電した拳の中段突きを叩き込み、イカ男を店の外へと突き飛ばす。  「ゲソ~ッ! 貴様、何者だ?」  「いや、そっちこそチョッパーの怪人薬でコンビニ強盗かっ!」  「うるさい! 俺に一万円くじの特賞を渡さないあの店が悪いんだ!」  「理由が下らなさすぎるっ! こいつで警察へ行けっ!」  立磨が腰を落とし、深く呼吸を行ったと同時にイカ男が墨を口から吐き出した!  「ぐはっ! 目がっ! 鼻と口がっ!」  技の溜めに入った所で、飛び道具を顔面に受けて悶える立磨。  「ゲソ~♪ 魔法拳法(まほうけんぽう)は呼吸が出来なきゃ雑魚だよ♪」  イカ男は下卑た笑いを上げながら触手となった腕を振るい、立磨に鞭打つ!  「うがっ!」  防御して耐える立磨、このままではジリ貧であった。  「立磨様っ! 今、お助けいたしますっ!」  愛らしく力強い美少女の叫びが響く!  「何っ? 何処だっ?」  イカ男が突然聞こえてきた叫び声に驚く。  すると、天に急速に暗雲が立ち込めて落雷と共に雨が降り出す!  その雨は、立磨の顔の墨を洗い流した。  「誰だか知らないが、助かったぜ♪」  痛みが残るも、不思議と雨が立磨を癒してくれているように彼は感じた。  「立磨様、これをお使い下さい! そしてドラゴンシフトと一声をっ!」  「なっ? 空に金の龍っ?」  立磨が空を見上げると、雨雲の中に金色の龍が見えた。  龍は口を開けて、小さな光の玉を立磨へと落とす!  立磨は自然と空へ手を伸ばし、光の玉を受け取った。  「何だ、小さな金色の龍?」  「ゲソ~ッ? 何かヤバい気がするゲソっ!」  立磨に謎の存在が加勢したのを見てヤバいと感じたイカ男。  「とにかくやるぜ、ドラゴンシフト!」  立磨が龍に言われた通りに叫ぶと、手にした小さな龍が彼の腰にベルトとなって巻き付いた!  それと同時に、何処からかユンボほどの大きさの金色の龍が現れて立磨の周りに蜷局(とぐろ)を巻いて彼を守る。  これではイカ男も手出しができなかった。  龍の蜷局にまかれた立磨は不思議な空間で服が光の粒子となって消滅し白い全身スーツに変化した物を装着する。 金色の龍の頭がベルトのバックルとなり、龍の体と尾がぐるりと立磨の腰回りと股間を守るように相撲の廻しのような形で巻き付いて腰鎧となる。  次に、胴には肩アーマー付きの金色の鱗模様のボディアーマーが付き手足にはガントレットとレガースが装着される。  最後に、立磨の頭部全体を金色の龍の頭を模したヒーローマスクがフルフェイスヘルメットの如く覆い変身が完了した。  立磨の変身が完了すると、彼を守っていた龍が消えて金色の龍の戦士が現れた。  「ゲソ~ッ? お前、ヒーローだったのか!」  「たった今からな、俺は今日からドラゴンシフターだ!」  「ポッとでのルーキーなんかに負けるか~~っ!」  「そっちこそ、パンピーが違法薬物で怪人になっただけだろうが!」  こうして誕生したドラゴンシフターと、イカ男の対決が始まった。  「喰らえ~っ! テンタクルラッシュッ!」  イカ男が、背中から十本の触手を生やして操り攻め立てる。  「体育会系なめんな! クロウスラッシュ!」  ドラゴンシフターが、手の甲から龍の爪を生やすイメージをすれば本当に爪が生えたので回し受けの要領で腕を回せば爪が伸びてイカ男の触手を切り落とした!  「ゲ、ゲソ~~ッ! お、俺の触手がっ!」  「知るか、ドラゴンアイ!」  ドラゴンシフターが叫ぶと、彼のマスクの龍の目が輝く。  すると瞬く間に、彼の視覚がサーモグラフを見ているかのような状態に変わる。  「怪人コア発見、心臓に居やがったか!」  ドラゴンシフターの目に、イカ男の心臓部分に巣食うゴムボールサイズのムカデ型の生き物が見えた!  「ゲソッ! コアの位置を特定された? コアが破壊されれば俺は怪人の力と命を失う、やらせはせんゲソッ!」  「うるせえ、人に戻れる段階だから戻してやる! 違法薬物購入と所持と使用の罪だけで済むんだから感謝しろ馬鹿野郎っ!」  ドラゴンシフターが、腰を落として拳を脇に添える。  「垣花流崩拳(かきはなりゅうほうけん)改め、ドラゴンストレートッ!」  ドラゴンシフターが突っ込み、金色の雷を纏った中国拳法で見られる縦拳の中段突きをイカ男に叩き込んだ!  「ゲ、ゲソ~~~ッ!」  「汚っ!」  ドラゴンシフターが距離を取ると、イカ男は口から墨と共にムカデ型の寄生生物を吐き出し人間へと戻って倒れた。  「よし、決まったっ!」  「お客様、商品です♪ ありがとうございました、警察も呼びました♪」  ドラゴンシフターが残心を決めると、コンビニ店員がビニール袋に入ったカレーうどんとコーラを持って来てくれた。  「あ、いえ! ど、どういたしまして!」  「すみません、SNSに上げるんで写真撮らせていただきます♪」  「え、ちょ! 撮影は勘弁してくれっ!」  ドラゴンシフターが断る前に、コンビニ店員は自分のスマホで撮影してしまった。  「ご利用、ありがとうございました~♪」  「いや、勘弁してくれ~っ!」  去っていく店員に叫ぶドラゴンシフター、これが彼のデビュー戦であった。  そして、サイレンの音と共にパトカーが二台来て警察官三人と私服の刑事が降りてきた。  「警視庁ヒーロー課の垣花(かきはな)です、変身を解いてお話をお聞かせ願いませんか?」  キリッとした黒髪ポニーテールに黒スーツ姿の美しい女性刑事がドラゴンシフターに警察手帳を見せて微笑む。  「げげっ! し、師範代(しはんだい)~~~っ!」  やってきた警察の人間が、彼にとって会いたくない知り合いだったショックで変身が解けるドラゴンシフター!  「な、君は日高君っ? 日高君じゃないかっ!」  垣花刑事も驚く、まさか時々稽古を付けている実家の道場の門弟の少年と遭遇するとは思わなかったようだ。  だが、垣花刑事はすぐに冷静さを取り戻して微笑む。  「……そうか、お手柄だな♪ それはそれとして、乗りなさい♪」  「……お、おっす!」  立磨は、師匠の圧力に負けて彼女と同じパトカーに乗ると警察へとドナドナされて行った。  「……あれ、警察署通り過ぎてますよ?」  「そうだ、今君が行くべき場は警察は警察でもヒーロー免許試験場だ♪」  「……えっと、どういう事でしょうか?」    てっきり警察署で取り調べかと思いきや、違う場所に向かっている事に唖然とする立磨に垣花刑事が続けて語る。  「日高君、君の仮免の学科試験の勉強を見たのは誰だ?」  「……し、師範代ですオス!」  「イレギュラーな事態だが、先ほどの戦いで実技試験と学科試験は免除だ♪ 写真撮影と身体検査の後に免許を受け取り給え♪」  「え? それってありなんですか? あの俺、受験料とか交付手数料の金持ってないんですけど?」  「問題ない、君のように突発的に力を獲得した者達の為の覚醒枠(かくせいわく)と言う制度があるしその場合は無料だ♪」  「そ、そうなんですか? 知りませんでした」  「イレギュラーな事態だと言ったろう? 免許は取ってからが本番だぞ?」  「……お、オス!」  立磨は師の言葉に頷いた。  やがて、立磨の乗ったパトカーは試験場に到着し立磨は垣花刑事と共に車から降ろされる。  試験場は夜でも稼働しているらしく、敷地内に入ると警官に先導されてグラウンドを走らされている様々な姿のヒーロー達を立磨は垣間見た。  「どうした? ああ、彼らはトレーニングだ♪ ここでは、免許の試験や交付だけでなくヒーロー達のトレーニングも行っている♪」  立磨に説明してくれる垣花刑事、彼女について行き試験場の建物の中へ入る立磨。  そのまま彼女の案内で身体検査を受け、顔写真を撮影し垣花刑事に自分の仮免許を手渡す立磨。  「良し、これは私が受付に渡そう♪ 三十分ほどで出来るからそのお弁当でも食べて待っていたまえ♪」  「おっす、宜しくお願いします!」  仮免許と引き換えに番号札を渡してくれた垣花刑事と別れ、試験場内の待合室でカレーうどんとコーラを飲み食いする立磨。  やがて、自分の番号が掲示板に表示されたので受付に行き免許と様々な教本類を受け取る立磨。  「よっし、これでやっと始められるぜ♪」  立磨は自分の免許証を見て喜ぶ、彼の夢であるプロのヒーローへの第二歩目を踏み出せたからだ。  だが喜んだのも束の間、試験場のテレビが緊急ニュースを流す!  「え? 地元の警察署を、チョッパーの怪人達が襲撃だとっ!」  自分が倒したイカ男が、お縄になって連れていかれた場所が悪の組織に襲われたと知り驚く立磨。  「立磨様っ! やっと見つけました!」  「……ん? どっかで聞いた声だが、誰だあんた!」  「私はあなたのパートナー、株式会社ロンスターのファン・ジンリーです!」  「パートナー? あんた、もしかしてあのでかい龍と関係があるのか?」  「説明は後でします、ドラゴンシフターの出番ですよ♪」  「わかった、頼む!」  「お任せ下さい♪」    突如現れた謎のパンツスーツ姿の金髪碧眼でボブカットな色白巨乳美女、ジンリーと一緒に試験場を駆けだして行く立磨。  「ファンロンバックルは、立磨様が念じれば来ます!」  「わかった、来いファンロンバックルッ!」  試験場を出た立磨が叫ぶと、再び小さな龍が飛んできてバックルとなり彼の腰に巻き付いて来た。  「良し、ドラゴンシフト!」  「お任せ下さい、ご主人様♪」  立磨が叫ぶとジンリーが金色の金属質な龍へと変化して蜷局を巻く。  再び立磨はドラゴンシフターへと変身すると、三輪バイク形態になったジンリーに跨って戦いに出撃した。
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