第2話 ヒーローの洗礼

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第2話 ヒーローの洗礼

 「怯むな! 前へっ!」  「おやおや♪ ご苦労様です、お巡りさん♪」  「キシャ~~~ッ!」    警察署の駐車場、パワードスーツを纏いラージシールドで防御を固めた警官隊。  彼らと相対するのは、胸に銅のバッヂを付けた灰色のスーツ姿の短い茶髪に眼鏡をかけたあからさまに嫌な奴そうな美青年。  そして、美青年の背後には、全身が灰色の耳目のない人の形をしてはいる異形の戦闘員達。  「そちらも仕事でしょうが、我らチョッパーも仕事をしくじったゴミの始末と言う仕事なんですよ♪ 行け、戦闘員どもっ!」  「戦闘員と、奴らの下級幹部怪人からは人間ではない駆除せよっ!」  戦闘員をけしかける美青年と、彼らに発砲する警官隊。  警官隊の銃撃が戦闘員達をミンチにして行くが、戦闘員を率いている美青年の影から無数に沸いて出て来て徐々に敵の歩みが進んで来ていた!  「下級? ですが、この仕事をクリアすれば私は中級幹部に昇進できるんです♪」  美青年はいやらしい笑いを浮かべると同時に、銅色の筋骨隆々なムカデの怪人へと変身した。  怪人の名はセンチピードブロンズ、秘密結社チョッパーの下級幹部だ。  サラリーマンに自分から株分けした寄生生物入りの怪人薬を売りつけ、イカ男を生み出した原因であった。  「ちっ! 隊長、弾切れです! 白兵戦に移行しましょう!」  「経理が予算を弾代に回してくれていれば総員、ポリスパイク用意! 前へっ!」  警官隊が弾切れになったアサルトライフルを捨て、腰の後ろに手を回し棒状のガジェットを抜くと棒が伸びて長槍が生まれる!  戦闘員達へと突き出された槍が、古代のファランクスの如く槍衾が形成されて突進して来たチョッパーの戦闘員達をひとまずは止める!  「粘りますねえ? もしかして、屋上辺りから移送を狙ってますか~♪」  「まさか、被疑者逮捕間もないのにこちらの手が読まれ過ぎだ! 署内に連絡しろ、空輸は無理だ!」  センチピードブロンズの笑いに焦る警官隊の隊長、無線で署内に連絡を入れる。  同時に、警察署の窓が割れて白い拘束衣を着せらた中年男性を抱えて窓から飛び降りて来たのは漆黒の忍者であった。  「こちらの仕事は果たした、後はそちらで」  「なっ! 凶星忍軍(きょうせいにんぐん)黒星(くろぼし)かっ!」  「はい、ありがとうございました黒星さん♪ お疲れ様でした~♪」    拘束着姿の元イカ男をセンチピードへと放り投げた忍者は素早く姿を消す。  姿を消した漆黒の忍者、黒星を見送るセンチピード。  「馬鹿な、そんなちんけな奴を奪還するのに大物の応援を頼むだと!」  「はい♪ 今回は予算が多くいただけたので雇っちゃいました♪」    警官隊の隊長は理解できなかった、悪の組織同士が手を組む時代とはいえ小学生野球にプロ野球選手を出すような事態だったからだ。  「ひ、ひ~っ! あ、あんたは!」  センチピードを見て恐怖に震える元イカ男。  「どうも~♪ お久しぶりですイカ男さん、そして死んで下さい♪」  センチピードが元イカ男を見下して、殺害を宣告する。  センチピードが右腕からムカデ型の鞭を出して、元イカ男を吊るし上げた時。  「そうはさせるかよ!」  金の龍の頭が目立つトライクに乗った、ドラゴンシフターが突っ込んで来た!  「何っ! ヒーローかっ? ぐはっ!」  ドラゴンシフターのトライクから生えた龍の尾に打たれ、元イカ男を離すセンチピード。  其処にドラゴンシフターがジャンプして、元イカ男のおっさんをキャッチし警官隊へと放り投げた。  「おおっ! 被疑者確保、急いで屋上へ行き空輸する!」  警官達の隊長が元イカ男を受け止めると、部下達に守られながら署内へと走る。  「くっ! あなたが、イカ男を中途半端に生かした迷惑なヒーローですか?」  「迷惑なのはお前らだろ? 俺は、人に戻せられる命は可能な限り助ける! お前みたいに後戻りできない奴は、容赦なく仕留めるっ!」  「青臭い! 見た所ルーキーですか? ヒーローを殺す方がゴミの処理より功績ポイントは高い、ならばあなたを殺して私は昇進するっ!」  「期待の新人、舐めるんじゃねえっ!」  ドラゴンシフターとセンチピードブロンズが、タイマンの構えに入る。  センチピードブロンズが連れて来た戦闘員達は、トライクからドラゴン形態になったジンリーが雄叫びを上げて紫色の電撃を纏った体当たりで全滅させた!  「ほう? 良い装備ですねえ、ですがあなた本体はどうでしょうか♪」  「見せてやるよ、かかって来いっよムカデ野郎っ!」  突っ込んで来るセンチピード、ドラゴンシフターは地面に手を付けて局地的な地震を起こしてセンチピードを転倒させるっ!  「ぐはっ! おのれ、ならば毒液を喰らいなさいっ!」  センチピードが口を開けて黒い毒液を吐き出して来る!  だが、その毒液は、ドラゴンシフターに触れると同時に霧散化した!  「高位の霊獣である龍に毒は効かねえよ! 大地の牙、アースファングッ!」  今度はドラゴンシフターが地面を殴ると、大地が牙の如くせり上がりセンチピードブロンズを空へと打ち上げた!  「やりますねえ、だが空中からの攻撃は避けられませんよ!」  打ち上げられたセンチピードブロンズ、全身からムカデを生やし触手のように操って襲い掛かる!  ムカデの触手が、ドラゴンシフターの手足に纏わり付くもドラゴンシフターは動じない。  「イカ男も同じ手を使って来たな、ドラゴンスパークッ!」  「何っ? あばっばばっば~っ!」  ドラゴンシフターの全身から、電撃が放たれてセンチピードブロンズが悶え苦しみ触手を解いて落下して来た!  「良し、決めるぜ! 黄龍よ、大地よ、俺に力を! ファンロンアッパーッ!」  腰を落とし、急速に大地からエネルギーを汲み取るドラゴンシフターの全身が金色に光る!  腰を落としてのエネルギーの溜めの次に、体を捻り上げる動作から繰り出されたアッパーカットが金色の龍の形のエネルギーを放ちセンチピードブロンズを龍の咢が飲み込み消し去った。  かくして、ドラゴンシフターの勝利により秘密結社チョッパーによる警察署襲撃事件は幕を閉じたのであった。  「……やっべ、最後の技が結構気力と体力が持っていかれるっ!」    だが怪人を倒したと同時に、ドラゴンシフターの変身が解け倒れる立磨。  そこに気付いたドラゴン姿のジンリーが、倒れかけた立磨の下へと急行し口を開けて受け止め体内に収納すると空へと飛び去った。  「……ここは、病院か?」  意識を取り戻した立磨、彼は腕に点滴を刺されて病室のベッドで寝かされていた。  「立磨様、失礼します」  「あんたは、ジンリーさんだっけ?」  「はい♪ あなたの、今生から永遠に永続契約のパートナーの黄金麗(ファン・ジンリー)です♪」  「いや、距離が近すぎじゃ? まつ毛も金? うっすらと角と尻尾が見えてる!」  病室に入って来た黒のパンツスーツの金髪巨乳美人のジンリーは、瞬間移動でベッドへと接近して立磨の手を握り顔を近づけた。  「はい、私の心身が美しいのは龍の中でも美しい黄龍の一族だからです♪」  「いや、自画自賛っ! 説明してくれるんだっけ?」  「では手っ取り早い方法で♪」  説明を求める立磨にジンリーが口づけをして、彼の中に自らの血を流し込んだ。  立磨の頭の中に次々と情報が流れ込み、彼の目は情報を映像として映していた。  「情報は血で伝えるのが一番です♪ 我愛你、我が愛しきご主人様♪ 」  ジンリーは情報過多で気絶した立磨の目を閉じると退室した。  「……あ~っ、頭が落ち着かねえっ! 龍に守られし一族とか何だよ?』  再び病室で目覚めた立磨、ジンリーにより説明として与えられた情報。  立磨にとっては、六時間休まずに映画を見させられた気分であった。  「おはようございます、ご主人様♪ 滋養の付く朝食ですよ♪」  ジンリーが卵粥と、コンビーフのサラダと牛乳の載ったトレイを持って来た。  「……ああ、ありがとうございます」  「いえいえ♪ ささ、朝食をどうぞ♪」  「で、ロンスターが龍神様が作った会社で俺がそこの所属ヒーローになったと?」  「はい♪ 手続きは全て完了しておりますので、これからの仕事も私生活もマネージメントはお任せ下さい♪」  「まあ、助けられたしこっちも力借りたから諸々了解だよ」  「それでは、明日の退院後は人工島フロートシティの転居先へ参りましょう♪」  「う~ん、地元を離れるのは心苦しいけれど心機一転がんばるか」    立磨はジンリーの言葉を受け入れた。  「は~っ、ようやく落ち着けるぜ♪」  「はい、ここが二人の愛の巣です♪」  「ちょ! 言い方っ!」  「何も問題ありませんよ♪ 両家公認、事務所兼住居で共働きの夫婦善哉です♪」  「まだ夫婦じゃねえから、俺の年齢的に!」  「天と冥府の双方の役所では、届け出が受理されているので夫婦です♪」  「この世のルールも守ろうね? ヒーローも社会性は大事だから?」  引っ越し先である、二階建てプレハブハウスで夫婦漫才をする立磨とジンリー。  退院後に実家に帰ると、豪邸にリフォームされておりすでに自分は転居済み。  両親や急に羽振りが良くなったご近所からは、笑顔で送り出されてと。  新たな棲家での、立磨の新生活が始まった。  「まあ、俺達の関係はさておきこの島はダークカルテットも目を付けてるんだよな?」  「はい、ここは新物質デーモニウムをエネルギーとして活用する為の実験都市です」    二人で一階の事務所に降りて来て、パソコンを見ながら話し合う立磨とジンリー。  「デーモ二ウム、名前からして魔界と縁がありそうだな?」  「はい、魔族達の組織であるクライゾーンが中心となって動くと予想されます」  「まあ、魔物退治もヒーローの仕事だよな?」  「ええ、ご主人様のご先祖様は大陸でも凄腕の妖魔ハンターだったそうですよ♪」  「それじゃあ俺は何気に、ご先祖様の仕事も継いだわけか? 色々重たいな」  「その心身の重荷を共に背負うのは強い伴侶です、家庭も世界も守りますよ♪」    大きな胸を張るジンリー、彼女の胸から照れた顔をそらす立磨。  「しかし、明日から転校か他の連中もヒーローだからこそ面倒だな?」  「頑張って下さい、お弁当はお任せを♪ 私のマーキングで、他の女子とご主人様に何かイベントがあるとかはありませんから安心して過ごして下さい♪」  「そっか、じゃあそう言う事は気にせずに行くよ」  立磨はジンリーの言葉に対して深くツッコまない事にした。
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