第6話 悪魔の宝石

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第6話 悪魔の宝石

 「では、本日の授業はデーモニウムについてです」  立磨達の教室で魔法学の授業が行われていた。  教壇に立ち、握り拳サイズの赤紫色の宝石を手に持って皆にかざして見せるのは黒スーツを着こなした老紳士と言う風体の男性教諭であった。  「これがそのデーモニウム、本来は魔界と呼ばれる異世界の鉱物だ」  「本来はと言う事は、別の使い道がされていたんですかゴートマン先生?」  「良い質問です、春原さん♪ この石は、あちらでは通貨にも使われる宝石の一種ですが近年では日本でも採掘可能となりました♪ では、何故採掘が可能になったのでしょうか日高君?」  春原さんの質問に答えてから、立磨に当てるゴートマン先生。  「九十九年の、第三次恐怖の大王戦争で世界の変動が起きたからです」  「ええ、その通りです♪ 地球のあちこちが異世界と混ざるなどの世界変動、これにより小笠原諸島の一部が魔界化した事でデーモニウムが採掘可能となり生活に転用する実験の為としてこの街が出来ました」  立磨の答えを認めるゴートマン先生。  「デーモニウムは、通貨としての価値にエネルギー源としての価値♪ それに加えて、三つ目の価値があるのは皆さんはお分かりですか?」  ゴートマン先生が生徒達を見やる。  「もしかして、クライゾーンや魔物の悪党を引き寄せる餌でしょうか?」  「その通りです日高君、流石は先日の競技場種撃事件の関係者ですね♪」  ヴィランの様な嫌な笑みを浮かべる先生と、先生の気味の悪さから手を挙げて答えた事を少し後悔する立磨。  すると、先生がみるみると頭を黒山羊の物に変えて悪魔としての正体を出す。  「先生は魔界の住人なので忌憚なくいわせていただきますが、この街はデーモニウムを利用した悪党ホイホイでもあります♪ まあ、東京などへの悪党からの被害を減らす為ですね♪」  ゴートマン先生がにやにやと笑う、生徒達は乾いた笑いを浮かべる。  「皆さん、残念ながら世の中は真っ白ではありません♪ だからこそ、皆さんはヒーローとしてこの事件に事欠かない街で座学と実務を積み世の中の白と黒を学びその中の尊い物などを守れるヒーローとなって下さい♪」  そう言ってゴートマン先生は人間に戻り、授業を終えた。  「な、生々しかった!」  「世の中、割り切れねえよな?」  「でも、腹を決めて動かねえと」  「先生の正体見るの、心臓に悪いよ」  「悪魔って、油断できないね」  授業が終わり、感想を言い合う生徒達。  「……まさか、学校に戻って来ても白と黒の清濁の話とか聞くとはな」    立磨が呟く。  「やあ日高君、お土産ありがとう♪ しかし凄かったな先生の授業は?」  「たっつん、土産ありがとうな♪ あの先生ヤベえよ」  「日高、お疲れ」  「委員長と、虎吉に徹か? どういたしまして、悪魔だからなあの先生」  立磨に声をかけて来たのは、友人となった三人の男子生徒。  真面目そうな眼鏡男子の委員長こと飯盛鋼ノ介(めしもり・こうのすけ)と、可愛い系の顔で軽そうな赤毛の少年、茜虎吉(あかね・とらきち)にクールな印象の銀髪の少年の寒川徹(さむかわ・とおる)であった。  「ゴートマン教諭、悪魔モードになると厄介だなあの御仁」  「言ってる事はわかるけどよ~? 生々しくね?」  「まあ、嘘をつかなければ良いってもんでもないよな」  「とはいえ、事件と学生生活の両立って難しいよな」  語り合う四人、前の学校ではヒーロー志望の変な奴としてボッチだった立磨もこの学校では普通の学生と言う感じで交友が出来ていた。  「そう言えば日高、ちょっと空気変わったけど中国で何かあったのか?」  「ゲーム作りの手伝いがハードだったのと、向うでも敵に襲われた」  「いや、繋がりが行方不明っしょ?」  「ああ、大変だったのはわかった」  徹に聞かれて答えたら、虎吉にツッコまれた。  「そうか、やはり所属している方が実戦の機会は多いのか?」  「俺の場合は、何か不運みたいなもんだよ」  「そうか、まあ一緒に戦う時は宜しく頼むな♪」  チームヒーローのレッド志望な委員長とは、そういう会話を交わす。  「じゃあ、今日の帰りパトロールして見ねえ?」  虎吉が提案して来た。  「いや、何かお前は遊びに行きたいだけだろ?」  立磨が胡散臭そうなものを見る目で友人を見て呟く。  「そうだな、だが皆が遊ぶ場所には事件が起きそうでもあるな」  徹が言われてみればと何かを納得した。  立磨達は友人づきあいも大事にしようと思い、仲間達に付き合う事にした。  「ジンリー、今日は友人達と学校帰りに出かけるから俺の追尾を頼む!」  「はい♪ こちらから、ご主人様のバックルにアクセスして確認済みです♪」  「それ、盗聴って言わねえ?」  「セキュリティの一環です♪ キリの良い所でご友人達にはお帰り頂いて家族の時間を確保します♪」  「ありがとう、ジンリー♪」  と言って、スマホでジンリーとの連絡を終える立磨。  そんな立磨に、春原さんが真面目な顔で近づいて来た。  「ごめん、日高君! 何か聞こえちゃったけど盗聴って、大丈夫なの?」  「大声で言わないで!」  「だって、心配だもん! 何かあったの?」  「いや、こっちの会社の話だから気にしないで相手は俺の婚約者なんだ」  「……ふえ? こ、婚約者さん~~~?」  「だから、声が大きいよ!」  「日高君、そう言う人がいたんだ♪」  「ああ、実は俺は会社のマネージャーと婚約中なんだ詳しい事はいずれ!」  何故か自分を心配して来てくれたらしい春原さんに、軽く事実だけを告げてから去る立磨。  「たっつん、どったの?」  「春原さんか、彼女が何か言って来たのか?」  「彼女も競技場の事件にいたな?」  「いや、俺が婚約してるって事話しただけだ」  男友達に説明する立磨。  「お前、あのマネージャーさんとそう言う仲だったのか?」  「マジで~♪ たっつん、リア充~♪」  「……い、色々と早すぎる人生経験だな」  「親同士の挨拶も終えてる、三年生になったら挙式予定だ」  友人達に色々言われつつ、立磨達はRPGのレベリング感覚で探索に出かけた。  「住宅街とは意外だな? 茜君の事だから中央通りかと?」  「いや、委員長! 俺だって免許持ちだし、マジメにやるよ!」  「すまんかった!」  委員長とアカネのやり取りをさておきしつつ、やって来たのは住宅街の公園。  「茜達の漫才はおいておいて、日高は何か感じるか?」  「何か妙な気配がするかな、俺達の他に人間以外の奴がいる感じが?」  「ああ、そう思う」  立磨と徹は周囲を探る、子供達がベンチで携帯ゲームをしたりブランコに乗る夕方の公園の景色が止まる!  「ちょ! 当たり引いた?」  「いや、様子を見よう」  「委員長、流石だな♪」  「冷静な奴がいるとありがたいぜ」    驚く虎吉と冷静な委員長。それに感心する徹と立磨。  彼らの元に、砂場から静かにおかっぱ頭に着物姿の少女が浮き出てやって来た。  「お兄さん達、何しに来たの?」  「俺達はヒーロー高専の学生で、パトロールに来たんだ♪」  「そうそう、座敷童ちゃんでしょ? 聞いた事ある♪」  「俺達は決して邪悪な者ではないんだ、話をしよう?」  「君なら、俺達に憑いているものからわかるだろ♪」  立磨達が一斉に腰を落とし、座敷童に目線を合わせる。  「……うん、金の龍のお兄さんはわかりやす過ぎる程に神様の側の人だね」  「ああ、今後は時々見回りに寄らせて欲しい子供達を守る為に戦うかもしれないが どうだろうか?」  「……できれば、ここで暴れて欲しくないけれど強い悪者が来たら私じゃ勝てないし強い人が必要になるからしかたないのでお願いします」  「正直に言ってくれてありがとう、君の意思は尊重するよ」  座敷童と話を纏める立磨であった。  「そう言うわけで宜しく頼む」  「よろしく~♪」  「すまないな、本当に宜しく」  「うん、眼鏡の赤いお兄さん♪ 虎のお兄さんと、雪女の混ざったお兄さんは龍のお兄さんが暴れ過ぎないようにお願いします」  「いや、人を危険物みたいに言わないでくれ?」  「龍のお兄さんは、自分が持つ強さに無自覚過ぎるよ?」  座敷童に釘を刺された立磨は落ち込んだ。  「わかった、可能な限り頑張るよ」  「眼鏡の赤いお兄さん、ありがとう♪ お礼にちょっと運をあげる♪」  座敷童が、委員長の頭に光の粒子を振りかけた。  「ありがとう、お礼のお菓子の奉納だ♪」  「うん、気持ちが伝わる♪」  「何か、委員長が座敷童ちゃんと仲良くなってる♪」  「委員長は、誠実な良い奴だから当然だな」  委員長が鞄から、駄菓子の袋詰めを取り出して座敷童に差し出す。  人工島の座敷童、そんな不思議な邂逅を得た立磨達であった。  「おい、この気配はまさか?」  「早速、出て来たか!」  「すまない、早速だが戦わせてもらう!」  「ちゃちゃっと、済ませるからね~♪」  「お願い!」  敵の気配を感知した立磨達は現実空間に戻る、そこにはクライ魔が出現していた。  『リストラ、カナシ~~~ッ!』  敵の姿は、黒く二メートル程の高さで横幅が広めで手が大きい怪人。  一般的な特徴を持つ、クライ魔だった。  「子供達が危ないっしょ!」  「させるか!」  「皆、行くぞ!」  「委員長の実戦だな♪」  立磨と仲間達が一斉に変身する。  『イエニカエリタクナイ~!』  遊具を殴り潰し、ゴミ箱を投げつけるクライ魔。  子供達の所へ飛んで行ったゴミ箱!  だが、虎模様のヒーロースーツを纏った虎吉が受け止めて防いだ!  「その足、止めさせてもらう!」  徹が瞳を輝かせると、クライ魔の両足が瞬時に凍り付いた。  「痺れて止まってな、ドラゴンスパーク!」  ドラゴンシフターが電撃を浴びせて、スタン状態にした。  「すまない皆、変身するっ!」  委員長が、学校の支給品である灰色なヒーロースーツを全身に纏う!  だが、そこから彼の体が更に光を放ち灰から赤にヒーロースーツが変色。  その上に白羽織の付いた黒い胴鎧と、手には燃え盛る日本刀を持っていた。  「委員長のスーツが進化したっしょ!」  虎吉が驚く。  「座敷童の力か?」  徹が驚く。  「委員長、多分その刀で一刀両断すれば倒せるし元に戻せる!」  ドラゴンシフターは、委員長が持つ刀の力が何故かわかった。  「そうか、ならばこのまま叩き切るっ!」  変身した委員長が、素早く敵に近づいてクライ魔を刀で一刀両断する!  彼に切られた敵は燃え尽きて、くたびれた会社員風の男性に戻った。  「一件落着だな♪」  委員長が刀を振り、元の姿に戻る。  「委員長、お手柄っしょ♪」  「凄かったな、おめでとう♪」  「やったな、委員長♪」  「皆ありがとう、しかしこれが座敷童から貰った運と言う奴か?」  立磨達に礼を言う委員長。  「そうだよ、それと私が眼鏡のお兄さんの事を気に入ったから力もあげたの♪」  「そうか、ありがとうな♪」  「うん、眼鏡のお兄さんはこれからもよろしくね♪」  委員長の背中におぶさった座敷童が微笑む、こうして委員長は妖怪の力を手に入れたのであった。  「それはその方が巡り合った縁ですね、私達のように♪」  「自分がそうだっとはいえ、そういうのってあるもんだな」  友人達と別れ、合流したジンリーと市街に出ていた屋台のラーメンを食べつつ語り合う立磨であった。
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