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 夏休みが始まって最初の水曜日、中学生らしく友だちと流行りの映画を観に行く約束があった。期末試験の結果はいつもどおり振るわなかったがお父さんはなにも言わなくて、違和感を抱きつつもほっとした気持ちで長期休暇に入っていた。適当な半袖とハーフパンツを着てリビングに顔を出す。 「いってらっしゃい」  お母さんはトーンを落とした愛おしげな声で僕を送る。僕はいつもの調子で淡々と決まりの返事を置いて真夏のぎらついた太陽の下へと足を踏みだした。まだ午前中だというのに空気は熱と湿気を含んでいて息苦しい。学生とは違い仕事でせかせかと動く大人たちの間をするりと抜けて待ち合わせ場所である駅のロータリーへと向かった。  五分ほど待っているといつもの三人組がそろい、特に余計な言葉を交わすことなく近くの商業施設に入っている映画館に足を動かした。友だちは決して多くはないけど、たまにこうして一緒に外の空気を吸ってくれるやつがいればそれでいいと思う。  映画が終わり、からっぽのお腹を満たすためにファミレスへ入る。いまだに鼻をすすっているひとりをもうひとりが茶化す。メニューを見る横目で僕もつられて笑った。それからこっそり練習していた曲をカラオケで高らかに披露し、それぞれ夕食に間に合うように解散した。  夕日が街をオレンジ色に染める。当然僕の体も同じ色をしていて、大きかった太陽の名残も相まって燃えているような感じがした。
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