黒は避けたい新生活

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黒は避けたい新生活

この事務所は、会社のいくつかの事務所のうちのひとつであって、営業所でもなければ本社でもない。総務課などもここにはなく、全体的に若い従業員が多いと思う。 法人営業課とフォロー営業課に真ん中で分かれた部屋の分かれ目付近に私のデスクがある。 法人営業は文字通り法人向けの営業、フォロー営業はメンテナンス見積作成や顧客ユーザー、メンテナンス工場の対応等をする。これは私とペアを組む営業に志願した蒼生センパイからまず最初に教えてもらったこと。 っていうか…なんでアンタが志願するんだ…法人営業さんは他に男女それぞれ2人おられるから20%の確率でしかペアにならないのに志願なんてしないでよ。 狭くはないけどそれほど広くもないワンフロアの事務所に食堂があるはずもなく、ランチをどうするかは2、3日まわりの様子を見てから決めようと思って今日は出社した。 「史華、メシ行くだろ?」 「………」 「いくつかいいところ案内するから心配すんな」 ポンポン…不必要な誘いに固まった私の頭に思ったよりもずいぶん大きな手が乗せられる。 「ははっ…河野さん、避けられてますよ」 そうそう、そうよっ…その調子で“パワハラ”とか“セクハラ”とか言っちゃってください、白川さん。 私が首を竦めたのを見て声を掛けてくれた白川春美さんは、私を蒼生センパイと挟んで座る女性営業さんで、去年の中途採用者らしい。年齢は蒼生センパイよりひとつ上だと言っていた。 「まあ、河野さんのおかげで、初日の人の様子を窺いながら気を遣う必要が全くないのが私たちは楽ですけどね。お先に〜」 ああああぁぁぁ…行っちゃうんですか…行っちゃうんですね…
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