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高校時代より落ち着きある声を出す彼は、エレベーターの音に反応して私をもう一度引っ張った。
「あとでゆっくりな」
何をゆっくり?と聞き返す間もなくエレベーターが到着する。彼はそれが開くのを見ることなく、私を
「こっち」
と促してから、磨りガラスドアの隣へ“ピッ”とカードをかざした。
「おはようございます」
「おはよう…と…今日からの方?」
後ろから来た男女から声がかかると
「おはようございます。今日からの子。俺、高校でよく知ってる子でびっくりです」
ドアを開けた蒼生センパイが後ろ向きになって応えた。私の方がびっくりだし、キスなんてさらにびっくりでワケわかんないし…と思ったけれど
「宮本です。よろしくお願いします」
最初が肝心だと、慌てて頭を下げた。
「どうぞ、入って」
「挨拶は、すぐに揃うからそこで」
二人は、頭を下げた私より先にさっさと部屋に入ってくれたので余計な気遣い不要という感じがホッする。が…
「史華、入れよ」
「…………」
「デスクに案内する」
「…………………」
また次の人も来る前で、蒼生センパイが無駄に優しく私を見下ろした。
なんだ、この人?高校時代、4人のイケメン集団の中でクールポジというか、内弁慶ポジで、4人の中ではワイワイしてるのにギャラリーが多いとツンと澄ましていた人だよね?もう数人いる中で、何とも自然に笑顔で話せるの?
10年ってすごく長いのかもしれない…でも、昨日のことのように思い出せる、あの日。
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