我が妹 杏子

1/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

我が妹 杏子

 妹はちょっとした有名人だった。ちょっとしたと言っても、どの程度を言うのかは少々、図りがたいが、有名人であることは間違いない。  私は妹の杏子と違って、目立つことのない、どちらかと言えば控えめで、渋谷のスクランブル交差点の横断歩道の白線に同化してしまいそうなほど、いや、それは言い過ぎか。とりあえず有名ではないことは確かだ。  杏子は華の十七歳。セブンティーンという甘い響きを身に纏った、穢れのない女子高生なのだが、学業の傍ら、ファッション誌の専属モデルをしていた。以前、私は杏子の撮影に同行したことがある。  秋から冬への微妙に寒い時期のファッションとコスメの特集で同行した私でさえも、見違えるほど杏子は、大人びており、丹念にメイクを施された彼女はセレブが集まるパーティーに顔を出しても恥ずかしくないような身なり。天使を思わせる屈託のない笑顔は、この世に撮られるために存在しているようだった。  黄金色の道を思わせる枯れ落ち葉が敷き詰められた一本道を杏子は、臙脂色のセーターに白いマフラー、紺のジーンズといった格好で落ち葉を踏みしめ、そのかすかな音をひとつひとつ確かめているようだった。  カメラのフィルターに笑いかける彼女というよりも、彼女に笑いかけるカメラのフィルターがそこにあった。カメラが笑っている。  自慢の妹でしょ?とスタッフの一人に声をかけられた。幼少の頃は私の方がかわいくて、きれいだったんですよと、拗ねたように反抗してみたりする。  屋外の撮影はどちらかと言えば、身体的に負担はないと杏子は言っていた。自然をバックにすると尚、良い。マイナスイオンを取り込めて、身体の底に溜まった錆が抜けていく感じがするのだという。じゃあ、屋内は?と訊くと、杏子は決まって言う。 「いろんな錆が溜まっていくのよね」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!