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侑弥くんはちょっとあきれ気味の声でそう言った後、一拍空けて「あ、そうだ」と言葉を続けた。
「ねぇ真伍くん。お願いがあるんだけど」
「何でしょう?」
「海浜公園に寄って欲しいんだけど、いいかな?」
*
俺たちの思い出の場所である海浜公園は、十二月の平日の昼間だからか、人影はまばらだった。
雲ひとつない快晴で太陽を隠すものはないが、立地と季節の関係で風がとても冷たい。
長時間のフライトの後だから疲れていると思うんだけど、風邪ひかないかな? 大丈夫?
などと心配する俺の気持ちなど知らず、侑弥くんは先へ先へとどんどん歩いて行く。
「今日が何の日か覚えてる?」
柵の向こうはすぐ海な遊歩道。
前を歩いていた侑弥くんはゆっくりと歩みを止めると、俺へとふり返った。
「えっと……はい」
ちゃんと覚えているが、俺が口にしなかったアニバーサリーを、侑弥くんが聞いてきた。
故意か偶然か――三年前の今日は、俺が彼を呼び出して告白し、両思いになった日。
両思いになったのが一月末で、侑弥くんが渡仏したのがその年の冬だから、彼がフランスへ行っていた期間とはイコールじゃないんだよね。
「あれからもう二年――いや、三年もたつのか」
右手をコートのポケットへ入れている侑弥くんが、青く高い空を見上げながら言う。
「早いような、遅いような……です」
「本当にね。では、第二問!三年前に僕とした、結婚の約束は覚えているかい?」
侑弥くんはニコッと笑うと、ポケットへ入れていた右手を引き抜き、握った拳を俺へと突き出す。
次に彼がくるりと手首を返して手を開くと、手のひらの上には紺色の小箱が。
「僕から君へ贈る、二つ目の指輪」
侑弥くんが左手で小箱のふたをあけると、箱の中央には銀色で品のいい指輪が、優美に鎮座していた。
「宮田真伍くん。どうか僕と結婚して下さい」
頬を染め、はにかむ侑弥くん。
リンゴーン、と鳴る鐘の音の幻聴が聞こえた気がした。
「……えっと」
確かに俺は侑弥くんと約束――いや、契約した。
彼が帰国したら結婚すると。
提出はしていないが結婚届も書いたし、三年前にお互いに贈りあった婚約指輪は、俺も彼も薬指にはめてはいるが――
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