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「本当に……いいんですか?
お、俺は侑弥くんと結婚できて嬉しいけど、あなたは俺なんかと結婚しちゃって――本当にいいんですか?」
好きだから、大好きで大切な人だから、誰より幸せになって欲しい人だから、不安になる。
生涯の伴侶なんて大役が、俺なんかでいいのかって。
「ん? 約束破る気?」
侑弥くんはぐいと俺へ近寄ると、うつ向く俺の顔を至近距離からのぞき込んでくる。
当然俺は慌てて、「いいえ! いいえ、まさか!」と、首と両手を左右に素早くふりながら否定する。
すると少し身を引いた彼が、フゥと深いため息をついた。
「あのね、真伍くん。僕は君の推しかもしれないけど、真伍くんだって僕の推しなんだよ」
「えっ……」
「僕が世界で一番大好きで愛してるのが君ってこと。いい加減分かりなさい」
子供に言い聞かせるみたいな口調で侑弥くんはそう言い、結婚指輪を小箱から取り出す。
「あ、えっと、でも……俺は、もう少し恋人同士でもいいんじゃ? なんて思ったりして……」
「現時点で僕らは恋人こえて婚約者だよ。――結婚式はこれからだけど、少しくらいフライングしてもまぁいいでしょ」
侑弥くんは空箱をポケットへ押し込むと、空いたその手で俺の左手をとる。
そして、俺の薬指から婚約指輪を引き抜いて結婚指輪をはめると、その上に引き抜いた婚約指輪をはめた。
「こうやって重ね着けすると、『ふたりの永遠の愛を、契約によってロックする』という意味になるんだって」
侑弥くんは悪戯っぽく微笑み、ズボンのポケットから箱入りじゃない、俺の薬指に新たにはめられたのと同じデザインの指輪を取り出した。
「同じように、僕の指にもはめて」
言われた通り、俺も侑弥くんの左手薬指に、結婚指輪と婚約指輪を重ね着けする。
「『ふたりの永遠の愛を、契約によってロックする』、ですか」
このふたつの指輪の重ね着けにそんな意味があるとは……と、俺が何となく復唱すれば、侑弥くんに抱き寄せられた。
「逃がしてなんかあげないんだから」
「侑弥くんになら、本望です」
「可愛いことを言うね。――真伍くん、愛してる」
「俺もです。俺も、病める時も健やかなる時も侑弥くんが最推しで……世界中の誰より愛しています」
周りに人が少ないことをいいことに、俺たちは顔を寄せあい、冬の日差しがきらめくその下で、唇を重ねた。
* 終 *
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