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予想通り、「あ、男がいる!」という不躾な視線を受けたが、思っていたよりは全然少なかった。
考えてみれば、まぁそうなるよな。
だって、もうすぐ推しと会えるのだから!
それも一メートル以内の近距離で!
そんなワクワクでドキドキでキュンキュンな、ときめきと緊張で心臓がおかしくなりそうな時に、他の奴を品定めしている余裕なんてない。
現に俺も、他のファンが男の俺をどう見ているかなんて、今や思考の端だ。
侑弥くんの目の前に立った時、何て言おう?
無難に「応援してます。これからも頑張って下さい」じゃ、つまらないよな……。
今さらどうしようもないけど、今日の俺の格好変じゃないかな?!
現在俺の頭の中は、こんな感じ。
*
うわぁー! とうとう俺の番がきた!
ヒエエ! 侑弥くん、マジで格好良すぎる!
なにこれ、どこの香水? それとも体臭? すっげぇいい匂いするんですけど!
顔面輝きすぎてて、お顔まともに見られないぃぃぃ!!
「りゅ……竜成役、すごく良かったです! SNS見てます、フォローしてます。頑張って下さいっ……!」
「ありがとうございます」
推しは柔らかな声でそう言い、俺へ微笑みかけ――後はほぼ記憶にない。
ハッと我に返った時、俺は会場になった本屋の哲学書の棚の前に、何故か立っていた。
今日のお渡し会は、写真集を買えば買うほど、オプションがつく仕組みだった。
俺はもちろんオプション最大の、五冊券を買った。
五冊券のオプション内容は、サイン入りの写真集一冊と、ツーショットでチェキが一枚撮れる、というもの。
だから侑弥くんとのツーショットチェキが、俺の手の中にあるのだが――撮った時のことを思い出せない。
目がつぶれそうなほどのステキな笑顔! いい匂い! いい声! しか思いだせない。
ツーショットチェキなんて、地下アイドルにハマっていた時に山ほど撮ったのに……撮った時の記憶が曖昧なんて、はじめてのことだ。
何か粗相をしていないか心配すぎるが、カフェでの同士ではないけれど、とりあえず倒れなくて良かった、と思う。
来月ある、侑弥くんが出演する新しい舞台、今から楽しみだなぁー!
チケット代稼ぐために働くぞー!
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