3・お渡し会

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予想通り、「あ、男がいる!」という不躾な視線を受けたが、思っていたよりは全然少なかった。 考えてみれば、まぁそうなるよな。 だって、もうすぐ推しと会えるのだから! それも一メートル以内の近距離で! そんなワクワクでドキドキでキュンキュンな、ときめきと緊張で心臓がおかしくなりそうな時に、他の奴を品定めしている余裕なんてない。 現に俺も、他のファンが男の俺をどう見ているかなんて、今や思考の端だ。 侑弥くんの目の前に立った時、何て言おう? 無難に「応援してます。これからも頑張って下さい」じゃ、つまらないよな……。 今さらどうしようもないけど、今日の俺の格好変じゃないかな?! 現在俺の頭の中は、こんな感じ。 * うわぁー! とうとう俺の番がきた! ヒエエ! 侑弥くん、マジで格好良すぎる! なにこれ、どこの香水? それとも体臭? すっげぇいい匂いするんですけど! 顔面輝きすぎてて、お顔まともに見られないぃぃぃ!! 「りゅ……竜成役、すごく良かったです! SNS見てます、フォローしてます。頑張って下さいっ……!」 「ありがとうございます」 推しは柔らかな声でそう言い、俺へ微笑みかけ――後はほぼ記憶にない。 ハッと我に返った時、俺は会場になった本屋の哲学書の棚の前に、何故か立っていた。 今日のお渡し会は、写真集を買えば買うほど、オプションがつく仕組みだった。 俺はもちろんオプション最大の、五冊券を買った。 五冊券のオプション内容は、サイン入りの写真集一冊と、ツーショットでチェキが一枚撮れる、というもの。 だから侑弥くんとのツーショットチェキが、俺の手の中にあるのだが――撮った時のことを思い出せない。 目がつぶれそうなほどのステキな笑顔! いい匂い! いい声! しか思いだせない。 ツーショットチェキなんて、地下アイドルにハマっていた時に山ほど撮ったのに……撮った時の記憶が曖昧なんて、はじめてのことだ。 何か粗相(そそう)をしていないか心配すぎるが、カフェでの同士ではないけれど、とりあえず倒れなくて良かった、と思う。 来月ある、侑弥くんが出演する新しい舞台、今から楽しみだなぁー! チケット代稼ぐために働くぞー!
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