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4・ハゲとぎっくり腰とディアマリン
夢のようだったお渡し会翌日の、月曜日。
「おい、宮田」
フリーターカップルの物件案内から帰ってきた俺に、飯田課長が声をかけてきた。
「何スか? さっきの客のことなら、契約とれるかは分かんないです。たぶんこれから別の不動産屋行く感じでしたし」
「そんなことどうでもいいんだよ。それよりお前、午後から『ディアマリン』に行ってこい」
「飯田課長が懇意にしてる、林オーナーの物件ですよね? 何かあったんです?」
「さっき林オーナーから、ぎっくり腰になったと電話があった。だから、共用部のきれた電灯変えてこい」
「俺がですか……」
「今の時期は客来ないから、安心して行ってこい。頼んだぞ。五階廊下の、一番奥にある電灯だそうだ」
ガラス張りの店内から見える空には、太陽がギラギラと凶悪に輝いている。
少し前まで外にいた俺は、今日が猛暑だと身をもって知っている。
しかし入社二年目の下っぱが、嫌だなんて言えるはずもなく。
せめてもの反抗として、弱々しく「はぁーい……」と返事をした。
*
俺の仕事は、不動産仲介業。
具体的な仕事内容は、部屋を探している客に、「お客様のご都合とご予算でしたら、こちらのお部屋はいかがですか?」と、提案と紹介をすること。
俺が案内した部屋に客が入居を決めてくれれば、仲介手数料が物件のオーナーから会社へ支払われ、それが会社の利益となり、俺の給料にもなる。
つまり入居させるまでが不動産仲介業の仕事であって、その先の家賃回収やら建物の維持管理やらは、管轄外。
だけどオーナーも客も俺たちも全員人間だから、入居させたらそれでおしまい! にはなりにくい。
もちろん入居させたら、そこでスパッと終わりにしてもいい。
けれどそうした場合、「あんたの会社は冷たいから、もっと優しくて親切な別の会社に紹介任せるわ」と、オーナーにバイバイされてしまうことが多々ある。
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