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部屋を紹介することで利益を得ている仕事なので、そうなるとすごくマズイ。
よって、今回のようにオーナーからヘルプが来た場合、引き受ける必要があるのだ。
基本的にヘルプに行くのは、そのオーナーを受け持っている担当者。
林オーナーの担当は飯田課長なのだが、ヘルプ内容がオーナーと対面する必要がない雑用なので、俺に押しつけてきたわけである。
「クッソ、あのハゲ課長め……!」
俺は『ディアマリン』近くの駐車場に社用車を停め、脚立や新しい蛍光灯を抱え、歩いて物件へ向かう。
物件まで五分強といったところだが、気温三十五度超え日の、午後一時の屋外はキツい。
すぐに汗が全身から吹き出してきて、最悪。
照りつける強烈な日差しで、焼肉にされそう。
物件の一階にコンビニが入っているから、そこで水のペットボトルを買ってから、エレベーターへ乗って五階を目指した。
「うぅ……あっちぃなぁ……」
五階についた俺は、飯田課長に言われた通り、廊下の一番奥にある蛍光灯の交換作業に入る。
課長はクソだが、林オーナーは良い人だし、このマンションも中々の良物件なので、頑張る。
『ディアマリン』は一階にコンビニ、二階に建築事務所と税理士事務所が入っている七階建ての、築浅マンション。
店舗を除く部屋数は二十五戸。
今はぎっくり腰で伏せっているが、シャキシャキしているオーナーがきっちり管理している、オススメ物件だ。
マンション名がちょっとアレなのは、オーナーが溺愛している孫由来なので、見逃してあげて欲しい。
「こんにちは。お疲れ様です」
少々手間取ったが無事蛍光灯を変え終え、フゥと大きく息を吐いた時だった。
マンションへ帰宅してきた住人らしき男性が、脚立の上へ立つ俺へ話しかけてきた。
「あ、どうも。こんにちは……――ッ?!」
脚立を踏み外して落ちるかと思ったが、何とかこらえた。
とめどなく吹き出していた汗が、一瞬で止まった。
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