5・推しの家

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チェキを撮った時並みに、距離が近い。 ドキドキが止まらないが、仕事はしなきゃなので、俺はすました顔で壊れた取っ手をスマホのカメラで撮る。 「修理費、結構かかりそうですか?」 「うーん、どうでしょうね? そこは大家さん次第ですけど、故意や無茶して壊したのでないなら……」 「故意じゃないです! 本当に! 嘘じゃないです! 普通にグッて引っ張ったら、ボキッてとれちゃって……」 「う、疑っているわけではないですから! そう簡単に壊れるものでもないし、わざと壊したなんて思っていませんから!」 信じて、とガン見してくる推しの視線に耐えられず、俺は足下のバスマットを見る。 柄覚えて帰って、同じの買おう。 「すみません、大きい声だしてしまって。――何日くらいで直りますか?」 「これから大家さんに連絡して、修理を手配してもらって――ということになるので、そうですね……一週間以内くらいには、直るんじゃないでしょうか」 俺の心境的には、今すぐ修理業者を手配し、今日明日中に直してあげたい。 しかし俺に直すための権限はないので、光の速さで帰社し、オーナーに早く修理してもらえるよう、飯田課長をせっつきまくろう。 「このマンションの大家さん、優しくてきちんとした良い方ですし」 今ぎっくり腰だけど、と心の中でつけ加えた時、侑弥くんが真顔で俺をじっと見ていることに気がついた。 え、何? もしかしてファンだってバレた? ま、まさかぁ! ないって! お渡し会翌日の今日だけど、直接顔をあわせたのは昨日の一回だけだし、それも精々一分か二分くらい。 俺は帽子かぶって伊達メガネもかけてたし。 「あの、間違ってたら申し訳ないんですけど……昨日あなた、僕と会ってませんか?」 えーーっ??!! 何で?! 何で新参ファンの俺のこと覚えてんの!? 「ぁ、……えっとぉ……」 ファンバレはマズイ。
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