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この関係でファンバレは、してはいけない。
侑弥くんが健やかに毎日をすごすために。
俺が楽しく彼を推すために。
「うん、手の甲に縦に三つ並んだ黒子。珍しいなって思ったから、覚えてます。レアな男性だったし」
今更遅いが、俺は慌てて右手の甲を左手でおおって隠す。
「昨日、僕の写真集のお渡し会に来て、一緒にチェキ撮った方ですよね!」
ちゃんと覚えてるんだぞ! と、誇らしげな雰囲気をかもしだしながら、侑弥くんがにこーっと笑う。
隠し通すべきことがバレた俺は、顔からさぁっと血の気が引き、全身の毛穴から脂汗が吹き出すのを感じた。
「あっ、あのっ……俺が不動産屋なのは本当で、このマンションのオーナーと関わりがあるのも本当で、偶然です! 決してストーカーじゃないですからっ……!」
俺が必死に弁明の言葉を吐き出せば、侑弥くんはハッとした顔になる。
「あ! そういう可能性もあるのか」
性格は天然入ってるという噂、本当だったんだな?!
ていうか、もっと危機管理もって!
ファンとして心配だよ!!
「でもあなた、ストーカーじゃないんでしょ? ならいいのでは?」
そりゃ一応俺は害悪ファンじゃないつもりだけど!
リスクマネージメント!
ヤバイファンもいるんだから!
「証明になるかは分かりませんが、これ……渡しておきますので。俺の名刺です」
ワイシャツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、フタを開けて一枚抜き、彼へ差し出す。
「へー、宮田真伍さんっておっしゃるんですね。お手数かけますが、風呂場の取っ手の件、大家さんへよろしくお伝え願いますね」
「は、はい! もちろん!」
*
ディアマリン近くの、有料駐車場に停めた社用車。
何とかここまで帰ってきた俺は、エアコンをかけた車内で、もう既に十分くらいぐったりしている。
この間もパーキングメーターは回り続けているが、知ったことか。
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