5・推しの家

3/5

104人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
この関係でファンバレは、してはいけない。 侑弥くんが健やかに毎日をすごすために。 俺が楽しく彼を推すために。 「うん、手の甲に縦に三つ並んだ黒子。珍しいなって思ったから、覚えてます。レアな男性だったし」 今更遅いが、俺は慌てて右手の甲を左手でおおって隠す。 「昨日、僕の写真集のお渡し会に来て、一緒にチェキ撮った方ですよね!」 ちゃんと覚えてるんだぞ! と、誇らしげな雰囲気をかもしだしながら、侑弥くんがにこーっと笑う。 隠し通すべきことがバレた俺は、顔からさぁっと血の気が引き、全身の毛穴から脂汗が吹き出すのを感じた。 「あっ、あのっ……俺が不動産屋なのは本当で、このマンションのオーナーと関わりがあるのも本当で、偶然です! 決してストーカーじゃないですからっ……!」 俺が必死に弁明の言葉を吐き出せば、侑弥くんはハッとした顔になる。 「あ! そういう可能性もあるのか」 性格は天然入ってるという噂、本当だったんだな?! ていうか、もっと危機管理もって! ファンとして心配だよ!! 「でもあなた、ストーカーじゃないんでしょ? ならいいのでは?」 そりゃ一応俺は害悪ファンじゃないつもりだけど! リスクマネージメント! ヤバイファンもいるんだから! 「証明になるかは分かりませんが、これ……渡しておきますので。俺の名刺です」 ワイシャツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、フタを開けて一枚抜き、彼へ差し出す。 「へー、宮田真伍(みやたしんご)さんっておっしゃるんですね。お手数かけますが、風呂場の取っ手の件、大家さんへよろしくお伝え願いますね」 「は、はい! もちろん!」 * ディアマリン近くの、有料駐車場に停めた社用車。 何とかここまで帰ってきた俺は、エアコンをかけた車内で、もう既に十分くらいぐったりしている。 この間もパーキングメーターは回り続けているが、知ったことか。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加