6・まさかのまさか(前編)

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6・まさかのまさか(前編)

飯田課長からの命令を受けてすぐ、俺は会社同士でつきあいがある修理業者へ連絡した。 すると「明日の十時以降なら対応できる」という返事をもらったので、侑弥くんの都合を聞くべく――電話をかけなければならない。 入居させた客の個人情報をファイリングしてある棚から、侑弥くんの資料を取り出し、自分の席へ持っていく。 090 - 8*** - 3*** これは入居した一昨年時点での情報なので、もし侑弥くんが入居後に電話番号を変更していたなら、当然かけてもつながらない。 普段なら、「電話番号変えてんじゃねーよ! わざわざ物件まで話しにいかなきゃならねーじゃん! 面倒くせぇ!」となるので、変わっていないことをめちゃくちゃ願う。 しかし今回は「番号変わってて欲しいな」と、ほんのり思っている。 だって俺が侑弥くんのファンだと、バレているからね。 本人が修理を頼んできて、それの連絡なのだから、俺に非はない。 今のところ爪の先ほどだって、職務から逸脱したことはしていない。 でも、やましいことをしている気持ちになるのだ。 仕事だから、と言いはれてしまうことが、むしろ俺の罪悪感を加速させている。 素直に「侑弥くんにお電話できる!」と、喜べない。 俺も推し目当てで、推しの事務所に勤めるようなヤバイファンみたいだなって、思ってしまう。 もし俺が侑弥くんだったなら、「お渡し会でオプションMAXの五冊券購入した濃いファンが、僕の家の住所も電話番号も知ってるのか……。本当に全部たまたま、なんだろうか? 何だか怖いし、気持ち悪いな」と、思いそうだなって。 「難しい顔してるけど、どうかしたんか? 字が汚すぎて読めないとかか?」 「――あ、いや。ちょっとボーッとしてただけ」 どどめ色に濁る自分の気持ちに注視してしまっていた俺は、隣席の久保田からの声に、慌てて意識を現実へ戻す。
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