6・まさかのまさか(前編)

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「オレこれから佐藤オーナーんトコに出かけてくるんだけど、帰りにコンビニで買ってきて欲しいものとかある?」 「んー、ならエクレア――じゃなくて、コーヒーゼリーよろ」 俺は甘いものが好きだが、今は甘さ控えめなのが食べたい気分。 「オッケー。行ってきまーす」 俺は久保田へ「いってらー」と軽く手をふった後、机の上へ置いていた、俺個人に支給されている社用スマホを取り上げる。 侑弥くんへ身分を証明するため渡した名刺には、会社の代表番号と、俺の社用スマホの番号が印刷してある。 だから「全然知らない奴からの電話」とは思われないはず――と考えながら、彼の電話番号を慎重に入力し、緑色の発信ボタンにふれる。 まぁ、故意か偶然か怪しいファンからの電話、と思われるかもしれないけれども……。 『――はい、もしもし』 ゆ、侑弥くん! 電話出るの早ッ! まだツーコールしか鳴らしてないよ?! 「あっ…あのっ、す、スマイルハウスの宮田と申しますッ。こちらっ……しょ、東海林様のお電話番号で、あっておりますでしょぉかっ?」 ヒェー! 緊張で舌が上手く回らない! 格好悪い! 情けなさすぎて泣きたい! 『はい、あってます。今日のお昼すぎにマンションでお会いした、不動産屋さんですよね? 取っ手の修理の件ですか?』 「っさ、左様でごさいますっ! あの後、修理業者に連絡しましたところ――」 ところどころつっかえ、たまに声をかすれさせたり裏返らせたりしながら、俺は取っ手の修理について必死に話す。 「――はい、はい。それでは失礼致します……」 侑弥くんが電話を切ったのを確認後、俺も電話アプリを閉じ、机の上に投げ出すように置く。 もう本日の営業はおしまいです。心労が激しいので。 マジで疲れた。今日はもう何もしたくない。 まだ十五時すぎだけど。 * 今日から八月な、十六時少し前。
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