6・まさかのまさか(前編)

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会社の資料室の片隅で、俺はファイルをめくりながら、大口をあけてあくびをする。 推しの住所と電話番号を知ることになってしまった、一連の出来事のせいで、昨夜はろくに眠れなかった。 俺のこと、キモかったりヤバかったりするファンだと、侑弥くんに誤解されていたらどうしよう……という、絶望的な気持ちのせいで。 「はぁーぁ……」 もう何回目か分からないため息が、俺の口から吐き出された時だった。 ズボンのポケットに入れていた、社用スマホが鳴った。 面倒臭ぇな、誰だよ? ――って、この番号は侑弥くんじゃん?! 「はいっ! スマイルハウス宮田ですっ!」 『こんにちは、お世話になってます。ディアマリン506号室の東海林です』 「ど、どうかされましたか? 修理に不備が? それとも、伺った者の態度が悪かったとかですか?!」 風呂場の取っ手の修理は今日の十時からで、修理業者からは昼前に、作業完了の連絡をもらい済みだ。 だから侑弥くんから電話がかかってくる、ということは、何か良くないことがあったに違いない。 『いいえ。お陰様でキレイに直りました。というか、扉ごと交換になりました。ありがとうございます』 「あぁそんな、お気になさらずっ! ――では、いかがされましたか?」 『廊下の蛍光灯がきれてしまって』 「はい?」 『今度は、エレベーター近くの蛍光灯がきれちゃったんです』 「あー……なるほど」 『新しいのに交換してもらえますか?』 「もちろんです! 明日、昨日と同じ時間ごろ交換に伺います!」 推しからのお願い、ということで、俺は安易に時間まで指定して引き受けてしまった。
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