7・まさかのまさか(中編)

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7・まさかのまさか(中編)

夏の不動産仲介業はヒマだ。 引っ越しシーズンじゃないからね。 だから飯田課長に二本目の蛍光灯の不調を伝えても、引き続き「店のことは気にせず行ってこい」と俺に丸投げだったし、林オーナーの腰もぎっくり()ったまま。 よって「もちろん大丈夫です! 明日、昨日と同じ時間ごろ交換に伺います!」という、俺の一存で勝手に決めた約束は守られた。 俺は何故あの時、日時をはっきり指定してしまったのか。 そう伝えることで、また会えるかもと思ったから? ――冷静に考えれば、避けられる可能性の方が高いだろうに。 できるだけ早く、推しからの依頼に応えたいと思ったから? ――それなら、「今から交換に伺います」と言うべき。 あの時、自分が何を思って日時を明言したのかは、次の瞬間には自分でももう分からなくなっていた。 「今日もあっちぃなぁ……」 八月二日。十三時少しすぎ。 侑弥くんに言った通り、俺はディアマリン五階のエレベーター近くのきれた蛍光灯を、交換していた。 「ふぅ……」 前回よりはスムーズに交換を終え、脚立から下りる。 平日の昼間だからか、侑弥くんどころか、誰一人通りがからない。 脚立と古い蛍光灯を持ち、俺はエレベーターへ乗り込む。 一昨日に引き続き、昨日もあまり眠れなかった。 空はくもっているが気温は高いままだし――何だかすごく疲れた。ちょっと眠い。 エレベーターが一階について扉が開くのと、俺がうつ向いて目をつぶり、ひたいににじむ汗を腕でぬぐったのは同時だった。 「――あ、不動産屋さん」 「へ? ぁ、はい?」 慌てて目をあけ、社会人の仮面をかぶって顔をあげれば―― 「ゆ、侑弥くん……! ――じゃなくて、東海林さん!」 水色のシャツに白のパンツという、シンプル爽やかルックが似合いすぎている彼が、真正面に立っていた。 このタイミングで会っちゃうのか?!
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