7・まさかのまさか(中編)

3/6

104人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
そう。何と今俺はディアマリン506号室――侑弥くん()のリビングにいるのだ! エレベーターホールで、侑弥くんから自宅でのお茶に誘われた時、ものすごくびっくりしたし、ちゅうちょした。 一昨日は、「取っ手修理のどさくさついでに、侑弥くんのお部屋をチラッと拝見できたらなー」なんて思った。 しかしこうして正式(?)かつ、ちょっと強引めにお招きいただいた今、心の中に一昨日のあわよくば……のような、いやらしい気持ちはまったくない。 そういう下卑た気持ちを持つ余裕がない。 緊張で心がぱつんぱつんなのだ。 「あのぉ……あなたのファンの俺を家の中へ入れてしまって、本当によかったんですか?」 「宮田さんはファンであることと仕事を切り分けられる、ちゃんとした人だと思ったので。風呂場の取っ手も廊下の蛍光灯も、早々に対応していただけて、本当に感謝しているんですよ」 「そんな……俺は自分の仕事をしただけで……」 「だからこれはそのお礼です」 キッチンから歩いてきた侑弥くんが、木製のおしゃれなローテーブルの上へ、黒色のお盆を置く。 お盆の上には、アイスコーヒーのグラスと、白い小皿へ鎮座するティラミスが、それぞれ二個づつ乗っていた。 「さぁどうぞ」 それらをローテーブルの上へ移動させた後、侑弥くんはグラスを一つ持ち、向かいにあるソファーへ座った。 「あ、ありがとうございます」 推しから勧められたなら、手をつけないわけにはいかない。 俺もグラスを持ち、水色のストローへ口をつける。 「すごく美味しいです!」 氷も入った冷たいコーヒーは、緊張でカラカラになっていた俺の喉を、心地よく潤す。 一口飲んだ後、すぐに続けて一気に半分近く飲んでしまった。 そして気がつく。 「あれ? これ、もしかして氷もコーヒーだったりしますか?」 「はい。その方が薄まらなくていいでしょう? ティラミスもどうぞ」 「は、はい」
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加