7・まさかのまさか(中編)

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「そうだ、せっかくだから質問しちゃおうかな。――ねぇ宮田さん。どうしてあなたは可愛い女の子じゃなく、成人済みのデカい男を推すことになったんですか?」 「ええっと、それはあの……」 どう説明していいものか、何から話せばいいものか分からなかったため、俺は前の推しの声帯が炎上したところから話すことにした。しどろもどろで。 * 「先月発売した『chocolate(チョコレート) × cat(キャット) × lips(リップ)』のBlu-ray(円盤)見ました! ダンスめちゃくちゃカッコよかったです! ダンス苦手ってインタビューで言ってましたけど、すごくカッコよくてもだえましたよ! マジで!」 「本当に? でもあの舞台、ダンスすごく頑張ったから、カッコいいって言ってもらえて嬉しいな」 「特典映像で、別キャラのダンス真似て踊ってるシーンも――」 推しの良さを語らずに、ファンになった経緯を説明することはできない。 だからか、しゃべっているうちに俺は段々ヒートアップしてきて――ズボンに突っ込んでいたスマホが、けたたましく着信音を鳴らしたおかげで、俺は勤務時間中であることを思い出した。 「すみません。ちょっと失礼します……」 着信したのは「サボってんじゃねーよ! はよ帰ってこい!」系の、お叱りメッセージかと慌てたが、違った。 久保田からの「帰りにガリガリ君買ってきて〜」という、クソどうでもいい連絡だった。 しかし、我に返らせてくれてありがとう、と久保田に感謝する。 スマホの時計を見れば、俺が侑弥くん家に入ってから、たぶんもうすぐ三十分くらいたつ。 侑弥くんから話題をふってきたとはいえ、少々長居しすぎた。 彼と俺は『推しとファン』だし、何より勤務時間中だから、もうおいとましなければ。 「会社の方からですか?」
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