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8・まさかのまさか(後編)
『パズデビ』ではフレンドになると、ユーザー間でメッセージをやり取りできるようになる。
俺と侑弥くんはこの機能を使い、徐々に親しくなっていった。
メッセージでやり取りする内容は、ゲームのことはもちろん、「今日も暑くて嫌になるね」的世間話まで。
「このメッセージを送った先に、本当に侑弥くんがいるのか?」と、ハッピーがすぎる事態に俺がたまに首をかしげながら一ヶ月弱たった、とある日。
『パズデビ経由のやり取りは面倒だから、これからはLINEで話さない?』
このメッセージを読んだのが自宅にいる時で、本当に良かった。
鳥の鳴き声みたいな甲高い奇声が、思わず出たから。
即決即断でOKすると、俺と侑弥くんのLINEは、驚くくらいあっさり普通につながってしまった。
更にその約半月後、次になんと俺は――侑弥くんから食事に誘われてしまった!!
そして約束した日が今日! 九月十五日! 午後七時!
――ということで、今俺はディアマイン一階のコンビニで、彼を待っている。
「こんばんは、宮田さん」
ソワソワしすぎの俺が万引き犯と間違えられないため、敢えてレジ近くの棚を眺めていると、左斜め後ろから声をかけられた。
「――っ! こ、こんばんは。侑弥く……じゃなくて、東海林さん」
あぁー! 侑弥くんはどこにいても何着てても、いつだってイケメン! 尊い!
今日の彼の服装は、だぼっとした白の上着に、黒のパンツ。
身バレ防止のためか、瞳が透けて見える程度の濃さの、ブラウンのサングラスをかけている。
「侑弥って呼んでもらって全然構わないというか、むしろ名前で呼んで下さいよ。宮田さんとはもう友達だと、勝手に僕は思っているんですけど」
そう言い、優しく微笑む侑弥くん。
コンビニが一瞬にして花咲く天国だよ!
「えっと、でも……」
「『友達』の方が何かあった時、他のファンに言い訳しやすいですし」
「そ、それもそうかも、です。じゃぁ……馴れ馴れしいかもですが、侑弥くんって呼ばせてもらいますね」
ただのいちファンにすぎない俺が、推しの友達に……。
本当にいいのかな?
「うん、じゃんじゃんそう呼んで。あ、友達なら僕も宮田さんのこと、名前で呼んだ方が自然かな?」
「へ?」
「真伍くん」
サングラスをずらし、素の目でこちらを見ながら、いたずらっ子みたいな表情をした推しに、俺の名前が呼ばれたんですけどっ?!?!
ちょ……、心臓爆発する!!
ファンサがすぎるよー! ありがとうございますー!!
「じゃ、飯行こっか」
サングラスをかけ直した侑弥くんは、くるりと俺に背を向け、歩きだす。
「……はぃ……」
早くも汗染みができていそうなTシャツの上から、俺は心臓を押さえ、ヨロヨロとした足取りで推しの後を追った。
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