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侑弥くんが事前に予約していてくれた店は、マンションから徒歩十五分強くらいの、かなり入りくんだ場所にあった。
古い小さなビルの端にある、その先に店があると知らなければ、確実に素通りするだろう灰色の重い鉄の扉を開け、狭い階段を上がる。
すると色褪せた紺色の暖簾がかかる引き戸にたどり着き、その戸を開ければ狭くて小汚な――いや、レトロなお好み焼き屋があった。
「こんなところにお店があるなんて、びっくりした?」
「え、いや、ぁの……」
「ここ、すごく美味しくて、人気なお店なんだよ」
隠れ家的店、なのだろうな?
狭い店内にはカウンター席が五つと、鉄板がついた四人がけテーブルが二つだけ。
店員も調理担当のおじさんが一人と、接客担当のおばさんが一人いるのみ。
テーブル席は既に両方埋まっており、俺たちはカウンター席へ案内された。
「僕のイメージじゃない店だな、って思ってる?」
「……ちょっとだけ」
侑弥くんが言う通り、もっとこう小洒落ていて高級な、クリスマスや記念日に恋人同士が行くような店を、俺は想像していた。
「真伍くんは、こういうところはあんまりな感じ?」
「い、いいえ!全然!美味しければだいたいは何でもOKですよ!」
「だいたい?」
「ゲテモノ系はダメなんで……」
「あはは、さすがにそこまで人を選ぶ店はチョイスしないかな。僕もそれ系は得意じゃないし」
「侑弥くんも苦手ですか。良かったです」
でも侑弥くんとご飯できるなら、ゲテモノ系でも我慢できるかもしれない……?
などと俺が考えていると、隣に座る侑弥くんがビールを頼んだので、俺も便乗して同じものを注文した。
何を頼んでも美味しいと言われたので、俺は豚玉&チーズ、侑弥くんはイカエビ玉を頼んだ。
このお好み焼き屋は自分で焼くのではなく、店主が焼いてくれたのを、目の前の鉄板の上へ運んできてくれるタイプの店とのことなので、完成するまでしばし待つ。
「……あの、今さらなんですけど、今日はどうして俺を食事に誘ってくれたんですか?」
推しがすぐ隣に座っており、なおかつ特別することがない、ソワソワしてしまう状況。
そのソワソワを、多少でも解消しようとおしぼりを無駄にいじりながら、俺は尋ねる。
「コンビニでも言ったけど、僕は真伍くんのことをもう友達と思ってるから」
「――ッ! こ、光栄ですっ」
ううう嬉しい! 嬉しいけど……本当にいいんだろうか?
ファンと友達……節度を守って両立できるかな?
――うん、できる! 俺ならできるとも!
できなくても、できるってことにしておこう!
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