8・まさかのまさか(後編)

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侑弥くんが事前に予約していてくれた店は、マンションから徒歩十五分強くらいの、かなり入りくんだ場所にあった。 古い小さなビルの端にある、その先に店があると知らなければ、確実に素通りするだろう灰色の重い鉄の扉を開け、狭い階段を上がる。 すると色褪せた紺色の暖簾がかかる引き戸にたどり着き、その戸を開ければ狭くて小汚な――いや、レトロなお好み焼き屋があった。 「こんなところにお店があるなんて、びっくりした?」 「え、いや、ぁの……」 「ここ、すごく美味しくて、人気なお店なんだよ」 隠れ家的店、なのだろうな? 狭い店内にはカウンター席が五つと、鉄板がついた四人がけテーブルが二つだけ。 店員も調理担当のおじさんが一人と、接客担当のおばさんが一人いるのみ。 テーブル席は既に両方埋まっており、俺たちはカウンター席へ案内された。 「僕のイメージじゃない店だな、って思ってる?」 「……ちょっとだけ」 侑弥くんが言う通り、もっとこう小洒落ていて高級な、クリスマスや記念日に恋人同士が行くような店を、俺は想像していた。 「真伍くんは、こういうところはあんまりな感じ?」 「い、いいえ!全然!美味しければだいたいは何でもOKですよ!」 「だいたい?」 「ゲテモノ系はダメなんで……」 「あはは、さすがにそこまで人を選ぶ店はチョイスしないかな。僕もそれ系は得意じゃないし」 「侑弥くんも苦手ですか。良かったです」 でも侑弥くんとご飯できるなら、ゲテモノ系でも我慢できるかもしれない……? などと俺が考えていると、隣に座る侑弥くんがビールを頼んだので、俺も便乗して同じものを注文した。 何を頼んでも美味しいと言われたので、俺は豚玉&チーズ、侑弥くんはイカエビ玉を頼んだ。 このお好み焼き屋は自分で焼くのではなく、店主が焼いてくれたのを、目の前の鉄板の上へ運んできてくれるタイプの店とのことなので、完成するまでしばし待つ。 「……あの、今さらなんですけど、今日はどうして俺を食事に誘ってくれたんですか?」 推しがすぐ隣に座っており、なおかつ特別することがない、ソワソワしてしまう状況。 そのソワソワを、多少でも解消しようとおしぼりを無駄にいじりながら、俺は尋ねる。 「コンビニでも言ったけど、僕は真伍くんのことをもう友達と思ってるから」 「――ッ! こ、光栄ですっ」 ううう嬉しい! 嬉しいけど……本当にいいんだろうか? ファンと友達……節度を守って両立できるかな? ――うん、できる! 俺ならできるとも! できなくても、できるってことにしておこう!
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