8・まさかのまさか(後編)

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「そんなにかしこまらないでよ、友達なんだから――て、君の意思を確認してなかったね。ねぇ真伍くん、僕と友達になってくれる?」 「もちろんですっ」 「ありがと。では僕らは今日から友達ということで」 タイミング良く運ばれてきたビールのグラスを打ち合わせ、二人で乾杯! その後ほどなくしてお好み焼きが運ばれてきて、食べながら世間話や仕事の話などをし――俺の緊張もだいぶほぐれてきたころ。 「俳優仲間や舞台関係者の人とかとも、結構こんな風に飲みに行ったりするんです?」 侑弥くんの趣味のひとつは、食べ歩きだし。 「時々ね。美味い店の情報交換は休憩時間とかにしたりするけど、でもだいたいは一人で開拓して回ってる感じかなぁ。この店もほぼ自力で見つけたんだよ」 「一人で? 意外です」 ヒトたらしというほどじゃないが、人当たり柔らかな侑弥くんは友人知人がたくさんいそうで、年中色々な人から食事や遊びに誘われてそうなのに。 「僕、友達少ないんですよね」 「えっ、嘘?! 信じられない!」 「残念、本当です。――その少ない友達も、日本のはしっことか海外にいたりして、あまり会えないし。だから最近一人飯ばっかで。そういう理由もあって、真伍くんを誘ったってわけです」 「あぁなるほど」 俺は口では納得したようなことを言いながらも、引き続き疑問に思う。 見た目最高で、性格も穏和な侑弥くんを、よく周りが放っておくな?! と。 普通に考えて、絶対に引く手あまたな人だろうにね?! ――あ、もしかしてこれはアレか。 人気があるってことは、その分変な奴もたくさん寄ってくるだろうから、遊ぶ相手は厳選しているとか? ということは、俺は厳選された特別な人間ってこと……?! マテマテ俺よ、調子にのるな。 「あ、でもこないだ、萌葱真琴(もえぎまこと)くんと飯食べてる写真、彼のSNSに上がってましたよね。ということは、萌葱くんとは仲良いんですよね?」 萌葱真琴というのは、俺が侑弥くんのファンになったきっかけの舞台の、メインヒーロー役をつとめていた、これまた超人気な舞台俳優だ。 「んー? 真琴くんとは親しい方だけど、友達とは少し違うかも?」 「え?」 「よく共演するせいもあってか、何だか一方的になつかれちゃって。一番最初に共演した舞台で、兄弟役やったせいもあるのかな? 彼まだ二十歳だし」 本人が言う通り、萌葱くんと侑弥くんは、よく同じ舞台に立っている。 共演者のSNSに、侑弥くんの画像が上がることも多々あるから、俺は萌葱くんのSNSもチェックしている。 それを見て俺は、二人は仲良しの友達だと思っていたのだが……。 いや、萌葱くんはSNSでのつぶやきもあわせて考えると、侑弥くんのことを確実に友達と思っている雰囲気なのだけど……。 確認程度の問いかけだったのに、意外すぎる、微妙に気まずいことを知ってしまった。 侑弥くんの友達認定ハードル、マジ高すぎなのでは? そのハードルクリアしちゃった俺ってすごい? 特別? ――って、だから俺よ、調子にのるなー!
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