9・つきあってはいけない男たち

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9・つきあってはいけない男たち

侑弥くんとの初食事会から、四日後。 会社からの帰宅中、俺はたまたま美波と出会い、ファミレスで夕飯を一緒に食うことになった。 「推し活、どんな感じ? 充実してる?」 テーブルにつくなり侑弥くんの話をふられたものだから、俺は侑弥くんと友達っぽくなったことを、つい美波へ話してしまった。 角の席だったし、隣と前は小さい子を連れた親子で、こちらの話を聞くどころじゃない様子だったから、まぁいいかなって。 もちろん小声でだし、相手は昔から知ってて信頼できる美波だし――下品だが正直なところ、自慢したい気持ちもあった。 美波は驚いたり興奮したりしながら、俺の話を一通り聞いたあと、目と口を三日月形に歪め、ニチャァと気持ち悪い笑顔を浮かべた。 「ふんふん、なるほどねぇー。いやー、うらやましいわぁ。真伍ってば、ヒーローがアイドルの、少女マンガのヒロインみたい」 「少女マンガのヒロインは、マンション廊下の切れた蛍光灯なんて変えねぇだろ」 「そんなことないよ。最近の少女マンガは、大人向け含めたら、バリエーション豊かだもん」 「それってもう、『少女』マンガじゃなくねぇか?」 「そんなことはないわよ。てかさ、話してる時のあんたの顔が、恋する乙女以外の何者でもないからさぁー」 「は?! 俺が乙女?! ギャグでもキモッ! ……あー、でも推し相手の話なんだから、乙女にもなるってもんか?」 よく分からないが――客観的に見て、推しについて興奮気味に早口でしゃべるオタクはキモい。 しかし内包する、推しへの気持ちは、恋する乙女みたいにピュアだと思う。たぶん。 「ね、女子がつきあっちゃいけない男の職業の、『3B』って知ってる?」 ニチャァっとした笑顔はそのままで、美波が急に話題を変えてきた。 「あ? ――聞いたことがあるような気がするけど、何だっけか?」 「美容師、バンドマン、バーテンダー」 美波がテーブルへ肘をついた左手の指を、人差し指、中指、薬指の順に、職業名を言うタイミングにあわせて立てながら、答えを言う。 「この三つの職業に共通するのは、浮気しやすい環境だったり、ヒモになりやすかったり、すれ違いになりやすかったりすること」 「そうそう、確かそんな感じの職業だったっけ。で、それがどうしたよ?」 「最近はこれに『舞台俳優』も加えて、4Bとよぶこともあるらしいよー?」
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