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俺の推し活は高校三年の時からはじまったのだが、それ以前のいまいちハリのない生活には戻りたくない。
仕事を頑張るのも、身だしなみに気をつけるのも、すべては推しのためと思うと頑張れるし、楽しい。
「それって本末転倒してない? 好きだから推しなんであって――」
美波が首をかたむけ、茶髪のセミロングを揺らした時、机の端に置いていた彼女のスマホがブブッと震えた。
「えっ?! ウソ、マジで?!」
スマホを手元へ引き寄せてすぐに、美波が目をかっぴらき、慌てた様子でそう言ったので、「どうしたよ?」と一応聞いてみる。
「今週末一緒に舞台見に行く予定だった子から、行けなくなったって連絡がきた……」
「それ本当か? 面倒になったとか、金がないとかじゃなく?」
「彼女のお祖父さんが入院してて、そろそろヤバイかも……という話は以前に聞いていたから、嘘じゃないと思う。何より彼女、この舞台見に行くのすごく楽しみにしてたし」
「あぁ、そういう理由か。疑ってすまん」
「ううん。でも困ったな。彼女の分のチケット、どうしよう……」
美波は眉間にシワを寄せて宙をにらみ――ハッとした表情を浮かべたかと思えば、次の瞬間には満面の笑みへと変え、俺を見て言った。
「ね、真伍! 一緒に舞台見に行こうよ!」
「え?」
「新しい推し、見つかるかもよ?」
「……女優も結構炎上すんじゃん」
「大丈夫! 乙女ゲーム原作の2.5次元舞台だから!」
予想外すぎる演目への誘いに、「は?!」と言った俺の声は裏返った。
2.5次元舞台というのは、漫画・アニメ・ゲームなどの二次元作品を原作とした、舞台やミュージカルのことなのだが――
「乙女ゲーム原作?! ってことはその舞台、イケメンしか出ないヤツじゃねぇか。そんなの見に行くかよ」
「ヒロインちゃんとその親友は女の子だよ。あと、ばぁやもいたはず」
「おばあちゃん含めても、女は三人ぽっちかよ!」
「これを期に、性癖のストライクゾーン広げてこ!」
「広げねぇよ?! ていうか、男とばぁやのどっち方向に広げろと?!」
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