10・ハロウィンパーティー

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アハハハハー! と、俺は大袈裟に笑い、おどけた感じで返す。 ちょっとぉー! ラブコメ漫画のフラグみたいなことを、推しに言われたんですけどぉーー?! 「そっかぁ、よかったぁ。――なんてね。誉めすぎだよ」 内心動揺しまくりな俺に気づくことなく、侑弥くんは自分の取り皿に、平然とサラダを盛り付ける。 ……うん、分かってます。 ただの冗談ですよね。 当たり前に、本気なわけがない。 俺たちは推しとファンで、なおかつ男同士なわけだから。 侑弥くんがゲイやバイという噂なんて、聞いたこともないし。 でも推しに「僕と結婚したら〜」なんて自分へ向けて言われたら、誰でもビックリして挙動不審になるってもんでしょ。 「いやいやいや! 誉め言葉がいくらあっても足りないくらい、ガチで美味しいですもん!」 「僕の料理、気に入ってもらえて嬉しいな」 侑弥くんは、それまでサラダへと向けていた顔を俺へ向け、聞いてきた。 「ねぇ真伍くん、舞台に立つ僕と僕の手作り料理、どっちが好き?」 「え?」 侑弥くんはずっとニコニコしていて、声音は軽く雰囲気も明るいまま。 だけどこの質問に、俺はわずかな湿度を感じた。 しかし爪の先ほどの、このじめついた違和感が何であるかが分からず、それ故に言葉にすることもできなかった。 「えぇー? そんな、選べませんよ! どっちも最高ですもん! 最高&最高で比べらないっす!」 だから、気づかないふりをした。 「ふふ、真伍くんは誉め上手だね。頑張って作ったかいがあったよ」 「マジのガチで美味しいから、俺はただ事実を言ってるだけですよ! ――あっ、こっちのサラダも美味しい! ドレッシング激うまっ!」 「気に入ったなら、レシピ教えようか?」 「教えてもらえるんですか?!」 「それくらいお安いご用だよ。後でLINEにレシピ送っておくね」 そう言い、侑弥くんは缶チューハイを飲む。 そんな他愛ない仕草でも絵になる彼に見蕩れ、違和感の件は俺の意識外へ追いやられた。
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