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五〜六メートルくらい歩いてからふり返れば、まだ侑弥くんはオートロック扉の前にいて、こちらを見ていた。
――侑弥くんの寝込みを襲ってキスした、最低最悪野郎な俺なんて、見送らなくていいから。
俺はもう一度小さく会釈したあと、駅へ向かって再び歩き出す。
行きと同じく、俺の右手には紙袋が握られている。
侑弥くんが「僕一人じゃ食べきれないから」と、料理の残りを詰めてくれたタッパーが入った紙袋だ。
重さも、訪ねた時に持っていたのと、同じくらいだと思う。
しかし俺は今持つ紙袋に、お土産で渡したワインボトルの倍くらいの重量を感じている。
だって食べ終えたら、タッパーを返すために彼と会わなきゃいけない。
俺みたいなクズは、二度と侑弥くんに会うべきではないのに。
「はぁ……」
駅とマンションの中間くらいまできたところで立ち止まり、大きく息をはく。
以前美波に言われた通り、自分が推しへガチ恋していたなんて……。
冗談やその場のノリや勢いなんて一切ない、相手がうたた寝してる最中に唇へキスとか、言い逃れしようがない。
いまだ自分で自分が信じられない状態だが……しかし…………うん……俺は本当に、たぶん、きっと、侑弥くんに恋をしてしまっている。
心の中心で熱く赤く燃えるこの気持ちは、憧れをこえたものだ。恋というものだ。
キュンでドキドキで、切なくて、やりきれなくて、泣きそうなほどどうしようもなく焦がれる、恋というものだ。
「最低だ……」
もうすぐしたら日付をまたぐ今、暗い路地には俺しかいなかったから、紙袋を持ったままその場にしゃがみこむ。
おめでとう! 宮田真伍はガチ恋厄介ファンに進化した!……なんてな。
めでたくねぇー! 一ミリだってめでたくねぇー!
自分が軽く白眼視していたような存在になっただなんて、最悪だ!
侑弥くんは俺が厄介ファンじゃないから、厄介ファンにならないと思ったから、友達扱いしてくれていたのに……俺はその信頼と友情を裏切ってしまった!
一億歩譲ってガチ恋してしまったのは、侑弥くんが魅力的すぎるから仕方ないにしても、寝込みを襲ってキスするとか重罪ですからー!
死んでぇー! 今すぐ自分死んでぇー……!!
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