推しは新進気鋭の2.5次元俳優です

12・ガチ恋と炎上(前編)

――すっぱ抜かれなきゃいいんじゃん。

なんて一瞬考えたが、その最低な思考に脳内でパンチをくらわせた後、俺はコンロの火を止めた。

＊

味噌ラーメンを食べ、洗濯物をベランダへ干した後、俺はスマホを持ってベッドへ寝そべる。
スマホのスリープを解除し、SNSアプリをタップ。
タイムラインをざーっと流し見た後、虫眼鏡マークへ触れ、トレンドをチェック。
――って、は？！
何でどうして、『東海林侑弥』がトレンドの八位にいるわけ？！
侑弥くんは、2.5次元舞台界隈では人気者で有名人だが、世間一般的知名度はかなり低い。
それなのにどうして……何があった？
早くも不安で心臓をバクバクさせながら、彼の名前をタップし――俺の嫌な予感が大当たりなことを知らされた。
推しの名前がSNSのトレンドに載ったのは、熱愛疑惑報道で……だった。

＊

侑弥くんの熱愛疑惑報道の相手は、アイドルグループ『ウサギふりる21』の百日紅(さるすべり)ザクロという女だった。

『ウサギふりる21』は、俺の人生初の推しが所属していた、かつて国民的人気を誇ったグループ『アリスりぼん19』の、姉妹グループにあたる。
姉妹グループといっても、『アリスりぼん19』がかなり落ち目になってから作られ、更に結成も二年前という若いグループ。
私情を抜いて見ても、落ち着いた人気のアイドルグループだ。

しかしかつて一大センセーショナルを巻き起こした『アリスりぼん19』の妹分だから、知名度はそこそこある。
そして百日紅ザクロは、『ウサギふりる21』の中で人気上位のメンバー。
つまり百日紅ザクロが炎上したから、そのついでに侑弥くんの名前がトレンドに載ったのだ。悔しい話だが。

なんちゃら砲と称して週刊誌に掲載されたのは、侑弥くんがザクロを抱きしめているスクープ写真。
記事に書かれていたことを簡単にまとめると、アイドルや若手俳優が集まっての合コン後、泥酔したザクロを侑弥くんがタクシーに乗せ、そのまま夜の街へ二人は消えていった――という感じの内容。

二人は過去、舞台で少しだけ共演したことがある。
(共演した舞台のブルーレイディスクを俺も持っているのだが、ザクロの役が脇役すぎたし、侑弥くんとは絡みのない役だったので忘れていた)
そしてザクロは「東海林侑弥のファン」であると、以前から周囲に公言していたらしい。